巨匠の死去から1年────
⽇本に《ハード・ゲイ》という⾔葉を定着させた衝撃のクライム・サスペンス
2023年8月7日、巨匠ウィリアム・フリードキンが87才で世を去ってからちょうど1年が過ぎた。
そしてこの度、半世紀以上にわたるフリードキンのフィルモグラフィの中で最も毀誉褒貶に晒された問題作『クルージング』(1980)の、43年ぶりとなる日本再公開が決定した。
この度、日本版・新ポスター・ビジュアルと場面写真が解禁された。
日本に《ハード・ゲイ》という言葉を定着させたこの作品は、本国での製作発表時から同性愛差別を助長する内容だとして、全米各地で猛烈な抗議活動を受け、封切時には非難轟々となり、興行も振るわなかった。
しかし今世紀に入ってから、欧米では『燃ゆる女の肖像』(2020)のセリーヌ・シアマをはじめとする名監督たちのフェイバリット作品としてその名が挙げられるようになり、また、HIVウイルスが世界に蔓延する前のゲイ・カルチャーを記録した貴重な作品として再評価も進んでいる。
10/4解禁『クルージング』本予告編
場面写真&作品解説
『フレンチ・コネクション』(1971)でアカデミー賞・作品賞と監督賞ほか5部門を受賞。
続く『エクソシスト』(1973)の世界的大ヒットでオカルト・ブームを巻き起こした巨匠ウィリアム・フリードキン。
長きにわたり失敗作と見なされていた『恐怖の報酬』(1977)は、ここ10年で評価が逆転し、今や各国で傑作と讃えられている。
それから3年、主演に当時のトップ・スター、アル・パチーノを迎え、フリードキンが放ったさらなる野心作にして80年代アメリカ映画史上屈指の問題作が『クルージング』(1980)だ。
1973年から79年にかけ、ニューヨークで実際に発生した猟奇連続殺人事件。
ゲイの男たちが惨殺され、バラバラにされた死体の一部はビニール袋につめられ、ハドソン川に投げ捨てられていた。
被害者たちの多くは、男同士が毎夜ハードなセックスを求めて集うSMクラブに出入りしていた。
興味を抱いたフリードキンをさらに驚かせたのが、逮捕された事件の容疑者が、『エクソシスト』の病院での検査場面に出演していた放射線科の看護師だったことだった───。
その容疑者への刑務所での面会体験、元NY市警の友人に取材したゲイ・コミュニティ潜入捜査談、そして自ら足を運んで目撃した、想像を絶するSMクラブ内の狂態を脚本に盛り込み、フリードキンは、NYアンダーグラウンドのゲイ・カルチャーを背景にした、かつてないクライム・サスペンスを完成させた。
結果的にハリウッド映画史上初めて男同士のSMセックスを正面から描いてしまったこの作品は、同性愛差別を助長するとして製作発表時から公開後まで、全米各地で猛烈な抗議活動を受けた。
大変な話題作となったものの、批評と興行は振るわず、今世紀に入るまで長らく語る者も稀だった。
だが近年、『パルプ・フィクション』のクエンティン・タランティーノ、『ドライヴ』のニコラス・ウィンディング・レフン、『燃ゆる女の肖像』のセリーヌ・シアマら名監督たちが本作をフェイバリットに挙げているだけでなく、各国のクィア映画祭では、HIVウイルスが世界に蔓延する前のゲイ・カルチャーを記録した貴重な作品として再上映/再評価される機会が増えている。
『クルージング』は、後の『羊たちの沈黙』や『セブン』などに先駆けた、80年代サイコ・サスペンスの重要作であり、SMゲイ・カルチャーの洗礼を受けて揺らぐ男の性的アイデンティティと精神の闇に迫った、今なお先鋭的な野心作だ。
性の多様性が謳われる21世紀の日本で、この作品はどのように受け止められるだろうか。
【物語】
夜のニューヨーク。ゲイ男性ばかりが狙われる連続殺人事件が発生。密命を受けた市警のバーンズ(アル・パチーノ)は、同性愛者を装い、“ストレート”立入禁止のSMクラブへの潜入捜査を開始する。毎夜、男たちの性の深淵を彷徨い、身も心も擦り減らすバーンズは、遂に犯人の手がかりをつかむが―。
出演アル・パチーノ ポール・ソルヴィーノ カレン・アレン
脚本・監督ウィリアム・フリードキン
製作ジェリー・ワイントローブ 原作ジェラルド・ウォーカー 音楽ジャック・ニッチェ
サントラ参加アーティスト:ウィリー・デヴィル ザ・クリップルズ ジョン・ハイアット マデリン・フォン・リッツ ミューティニー ラフ・トレード ジャームス
【1980年|アメリカ|カラー|ヴィスタ|DCP|原題:WILLIAM FRIEDKIN‘S CRUISING|上映時間:102分】
北米初公開1980年2月15日(ユナイト配給)、日本初公開1981年1月24日(東映洋画配給)
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