会いたくて❤幽体離脱。
2024年に開催された第19回大阪アジアン映画祭の特集企画「タイ・シネマ・カレイドスコープ2024」内で上映され大反響を受けた異色のマルチバース・ラブ・ホラー『สัปเหร่อ』(映画祭でのタイトルは『葬儀屋』/英題は『The Undertaker』)が、邦題を改め『サッパルー!街を騒がす幽霊が元カノだった件』として9月26日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開中だ。
「cowai」では映画の公開を記念して、ティティ・シーヌアン監督への単独インタビューを掲載。また、映画のB2ポスターを抽選で3名様にプレゼントします。(応募方法は記事の後半で紹介)

亡霊となった元カノのため、いざ死霊の世界(マルチバース)へ!?

タイ東北部のイサーン地方。霊の存在を信じるこの土地で、妊婦バイカーオの亡霊を目撃する住人が多数あらわれる。しかし、同じ街に住む元カレのシアンのもとには一向に姿を現さない…。どうしてもバイカーオに会って話がしたいシアンは、街でただ一人の葬儀屋のもとを訪れ、幽体離脱の術を伝授してくれと頼み込む。霊体になってバイカーオのいる死者の世界(マルチバース)へ向かおうというのだ!老い先の短さを自覚している葬儀屋は、息子と共にこの街の葬儀屋を継ぐことを条件に指南を開始するのだが――。街を騒がす元カノの本当の目的とは一体!?

「私にとって“死”ほど身近なテーマはない」
『サッパルー!街を騒がす幽霊が元カノだった件』公開記念!
ティティ・シーヌアン監督インタビュー

――『サッパルー!街を騒がす幽霊が元カノだった件』かなり独創的なイメージで、日本でも注目を集めています。まず、この作品がタイで30億円の大ヒットになったことが、日本でも驚きかれていますが、なぜここまでのヒットになったのか、理由を教えていただけますか。
ティティ・シーヌアン監督: たぶん、この映画が成功した秘訣は、徹底したマーケティングの戦略のおかげです。私が初めての映画を撮ろうとした時、タイ映画業界はコロナ禍で収益が落ち込んでいました。人々は家から出ることをやめて、当然、映画館に足を運ぶ人もいません。そんな中で、僕が映画をヒットさせるためにはマーケットの分析を徹底する必要がありました。具体的には、どんな映画を撮ったら、以前のように人々が映画館に足を運んでくれるのか、そして興行収入を上げられるのか研究したんです。

シーヌアン監督: 実はタイではここ数年、毎年ラブストーリーがたくさん撮られていました。でも正直、人々はラブストーリーに飽き始めているのではないかと感じました。実際どれもそこまでヒットしていなかったし。だから次に来るジャンルを探りました。
それと私自身がありきたりのラブストーリーを撮ることに乗り気でなく、「自分らしくないな」と思っていました。
じゃあどんなテーマが自分らしいのか?と考えた時、ふいに“死”をテーマにしようと思い立ったのです。私にとって“死”ほど身近なテーマはないと思います。
だから、そこに元々、タイ人が本当は一番好きなジャンルではないかと考えている「コメディ・ホラー」の要素を絡めました
――タイ人はコメディ・ホラーが好きなんですか。
シーヌアン監督: 僕が調べた限り、タイ人はコメディ・ホラーが一番好きなんです。でも、そんなに作られていなかった。
――先程、監督は「私にとって“死”ほど身近なテーマはない」と仰いましたが、具体的にどんな理由からそう思ったのですか。
シーヌアン監督: 私は子供の頃、田舎にいて、家はかなり貧しかったんです。そこでお金を稼ぐ方法として出家をしました。タイでは子供の時に出家すると葬式の手伝いをするんです。大体、一ヶ月に七回ぐらい葬式に行きました。そこでたくさんの死を目の当たりにしました。葬式に参加する人たちの、愛する家族を失った喪失感だとか、悲しみをしょっちゅう見てきて、とても身近なことだったんです。なので、このことを映画として、あえて悲しみだけでなく、コメディの側面から描きました。

――サッパル―(葬儀屋)という言葉は、この映画で初めて聞きましたが、タイの映画では良く描かれるんでしょうか。
シーヌアン監督: そうですね。タイのイサーン地方(東北部)を舞台に作られている映画自体は実はたくさんあるんですけど、サッパルーを主人公に描いたり、サッパルーの生活を描いた作品はこれが初めてと思います。
あと、サッパル―同様、イサーン地方独特の文化を描いたという意味では、本作の「幽霊との共存」というテーマも本作で初めて描かれたと思います。

リアルに怖いと感じさせる演出にこだわった

――幽霊がたたずむシーンや、首つり自殺のシーンなど、ホラー的な演出もリアルで印象に残ります。
シーヌアン監督: ありがとうございます。ホラーっぽいかどうかはともかく、リアリティを重視しました。例えば、首をつって自殺するシーンでは、実際に人が首を吊ると、身体はどんな状態になるのか、何分何秒後に息が止まるのか、かなり詳細に調べましたね。その上で、本当に首をつっているように見せるため、顔や手足をどのようなアングルやタイミングで撮影するかこだわりました。だからあまりカットを割らずに、できるだけ引きの画でワンカットで見せるようにしました。リアルな撮り方にこだわった理由は、第一に観客と誠実に向合いたいから。嘘をついていない演出にしたかったんです。
――リアルに見せたいとのことですが、幽霊の描写などは、本来は、現実のリアリズムとは異なるかと思います。でも本作の幽霊は、ホラーを見慣れた観客にも不気味にリアルに感じると思います。何か参考にされたホラー映画などはありますか。
シーヌアン監督: 実は私、ホラー映画をほとんど見ないんです。理由は、ホラーによくある大きい音で驚かせたり、無理矢理怖がらせたりする演出が好きでないから。だから幽霊を描く場合もジャンプスケア的な演出ではない、私自身が本当に恐いと感じる演出を考えました。それはとてもシンプルで、驚かせる音も出さない。幽霊そのもので怖がらせるというより、幽霊を見た人がどう怖がって反応するかを丁寧に描きました。幽霊を見た時の反応って、人それぞれじゃないですか。私にしても、他の人にしても、たぶん、みんな違う。だから、ありきたりなリアクションは避けました。それが結果として、独自の幽霊の演出につながったんじゃないかと思います。

――撮影で苦労した点や、こだわった点があれば、教えてください。
シーヌアン監督: 大変だったのは、プロの役者以外に、(ロケ場所のイサーン地方の)地元の人たちにも演じてもらったことです。葬式に地元の人が参加するシーンはドキュメンタリー風に撮りました。そうなると大きなカメラは使えないんです。彼らには撮影していることを意識させないよう、まるで本当の葬式に参列している雰囲気で撮らせてもらいました。イサーンのサッパルーの儀式や文化はかなり独特で、外国の方はもちろん、タイのそれ以外の地域の人にも理解しにくい部分があったかと思いますが、観客に嘘をつきたくなかったんです。だからイサーンではこういう風に葬式を行うんだよって、なるべく事実のまま自然に描くことを心がけました。

幽霊とは“もう一つの世界にいる存在”

――監督自身は「恋人が幽霊となって現れる」という話を信じますか。また、幽霊の存在について、どのような考えをお持ちですか。
シーヌアン監督: 私の解釈では、幽霊というのは“もう一つの世界にいる存在”だと思っています。例えば、人間が蟻を見る世界と、逆に蟻が人間を見る世界は違うと思うんです。それは鳥や魚も同じで、見える世界はそれぞれ違います。なので幽霊とは、人間とは違う別の世界にいる魂であって、もしかしたら私たち人間と何ら変わらない日常生活を送っているのかなと考えます。つまり私は、幽霊の世界とは、人間のパラレルワールドだと解釈しているのです。死んだ人は別の似た世界に行くのですが、私たち人間は、彼らがどこに行ったのかをただ知らないだけだと思っています。

――面白いですね。監督には、本作もそうですが、独特の美意識を感じます。先程はホラーをあまり見ないと仰いましたが、本作の作る過程で影響を受けた作品はありますか。
シーヌアン監督: まあ、ホラーに限らず、映画を見ている数がすごく少ないんです。だから映画制作者と話をしていても話が噛み合わなかったりします。そんな私が好きな映画を三本上げるとすると…一つは『7番房の奇跡』。韓国の刑務所が舞台の作品で、すごく濃い人間ドラマでした。二本目がタイ映画の『メコン・フルムーン・パーティ』。同じイサーン地方の人間の信仰を描いた映画です。
あと一本はインド映画の『PK ピーケイ』。宇宙人が地球に落っこちてきて人間の宗教や信仰に疑問を持つという大好きな作品で、『サッパルー!』を作る時、すごく影響を受けました。
――監督の映画の好みも、この映画同様にジャンルを超えた多様性を感じます。監督自身は『サッパル―!』という作品をどう見てほしいですか。
シーヌアン監督: 個人的にはこの映画がどんなジャンルか答えられないんです。ただ、登場人物のいろんな人生を映画で語っているので、そこに自然と多様性が生まれたのかなと思います。
それから今回の脚本の執筆は、他の作品とはちょっと違うんです。他の作品では、観客が見終わった時に何かを得られる、作り手から何かを与えようとする意図を決めてから、脚本を執筆するんですが、『サッパルー!』に関しては、そうしたことを一切決めませんでした。作品を見た人が「何を受け取って、何を持ち帰るかは、その人次第」という書き方にしています。
――最後に日本の観客に向けてメッセージをお願いします。
シーヌアン監督: この映画はもしかしたら最高の映画ではないかもしれないですけど、“幽霊との共生”など、イサーン地方独特の生活や信仰を描いており、それは他の作品では見られないものです。自分としては皆さんに楽しんでもらえるか、ちょっと自信がないですけど、全力で作ったので、ぜひ心を開いてご覧ください。
――ありがとうございました。

ティティ・シーヌアン 監督【愛称:トンテー】 PROFILE

1996 年 3 月 11 日生まれ。俳優、脚本家、映画監督。タイ東北部イサーン地方の国立マハーサーラカーム大学芸術学部卒業。MV の監督として2015年に発表した、同じイサーン地方出身のルークトゥン(タイの演歌)歌手、ゴン・フワイライの「ไสว่าสบิ่ถิม่ กนั 」(サイワーシボティムガン)の MV で一躍有名になる。T-Pop の人気歌手 TaitosmitH、Palmy、Cocktail 等の曲の MV を手掛け、特に2024年に日本の東宝スタジオでゴジラと一緒に撮影した Cocktail の「Yours Ever」のMV は YouTube での視聴回数が1億2千万回を超えている。映画界との接点は、俳優として 2018 年に『Thi Baan the Series 2 Part
2』に出演したことに始まる。以降主に Thibaan スタジオ制作の6本の映画に出演。本作『サッパルー!街を騒がす幽霊が元カノだった件』にはカメオ出演をしている。2020年に『Thibaan×BNK48』の共同監督・脚本で映画監督デビューし、本作が初の単独監督作となる。2025年夏、『サッパルー2』(仮)の撮影が終了し、現在編集作業中。
INSTAGRAM ⇒ https://www.instagram.com/tongte_thiti/
【取材・文 福谷修(ふくたにおさむ)】
WEB映画マガジン「cowai」創設・運営・編集長、ライター、映画監督。KADOKAWA「DVD&ビデオでーた」「ザ・テレビジョン」などのライターを経て、映画監督に。多部未華子主演の映画『こわい童謡』や、加藤雅也主演の日本香港合作映画『最後の晩餐』(スコットランド国際ホラー映画祭準グランプリ受賞)などホラー作品多数。他に、NintenidoDSのホラーゲーム「トワイライトシンドローム 禁じられた都市伝説」の監督・脚本、作家として「子守り首」(幻冬舎文庫)など著作多数。総監督を務めた新作ホラー・アニメ映画『ナイトメア・バグズ 心霊蟲』(花澤香菜CV/2025年)がアヌシー国際アニメーション映画祭2025(大トリ)に続いて、第58回シッチェス・カタロニア国際ファンタスティック映画祭に選出されて大忙し。
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INTRODUCTION
タイで異例の興行収入30億円(2023 年・第1位)の大ヒットを記録した
異色のマルチバース・ラブ・ホラーの傑作がいよいよ日本初公開!!

独自の世界観を描いたタイバーン・ユニバースで一躍その名を知られることとなったティティ・シーヌアン監督による異色作。第19回大阪アジアン映画祭では監督・キャスト揃って来日し、「幽霊はマイフレンド」との監督の発言が会場を沸かせたことも記憶に新しい。ホラー、マルチバース、ドラマ、コメディと様々な要素が絡み合いながら生み出される独特の高揚感で、小規模上映から全国へ拡大して異例の大ヒットを記録した本作。舞台となるイサーンはタイの東北部にある地方。「撮影中もずっと霊の存在と共にあった」、というほど霊との共存が当たり前に受け入れられているその地域で、現代では見られない独自の儀式、方言、文化をベースに制作され、本国で大きな注目を浴びた。異色の作品であるにも関わらず、口コミでその魅力が広まり興行収入はなんと7億バーツ、日本円にして30億円越えの特大ヒットを記録!タイの2023年の興行収入ランキングで堂々の一位に輝いた奇跡の作品だ。

監督・脚本:ティティ・シーヌアン
出演:チャーチャイ・チンナシリ、ナルポン・ヤイイム、アチャリヤー・シータ、スティダー・ブアティック、ナタウット・セーンヤブット
製作:Thibaan Studio Production プロデューサー:サチャット・ブンゴースム、スパナット・ナムウォン、スラサック・ポンソーン
エグゼクティブ・プロデューサー:シリポン・アンガサグンキアット、コムクリット・ピパットパヌクン
撮影監督:クリッティデート・グラジャーンシー 編集:チュティポン・ラックホーム、ティティ・シーヌアン、ピタヤー・ニンラープ
プロダクション・デザイン:アヌソーン・ゴーシリワット 衣装:アカリン・アマリットターウォン サウンド・デザイン:アートサナイ・アートサクン、サチャット・ブンゴースム
サウンド・デザイン(イサーン民俗音楽):ティティ・シーヌアン、キティチャイ・ピウプイ、プマナン・パンプーウォン、チラユ・スパッティ、チェッター・タクラングリアン、アーロム・ロートプラパン
英題:The Undertaker 原題:สัปเหร่อ
字幕翻訳:大沢晴美、ワイズ・インフィニティ 字幕監修:高杉美和
協力:大阪アジアン映画祭 後援:タイ国政府観光庁 配給:インターフィルム
【2023年/タイ/タイ語(イサーン語)/125分/2.39:1/5.1ch/DCP】
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9月26日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開
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