実話怪談 一番怖いのは撮影現場 /第一話「ロケ弁当」

連載・実話怪談



今はメジャー作品の撮影も手がけるカメラマンのE氏。

最近はさすがに断っているが、駆け出しの頃は、バイト感覚で心霊ドキュメントを数多く撮っていた。当然、廃墟や事件現場にもよく行ったという。

「僕は怖がりだから本当は行きたくない。でも、おかげさまで、これまで大きなケガや災難、トラブルに巻き込まれたことはなかった。ラッキーと言えばラッキーだったと思う」

 長年の経験と勘だろうか。本当にやばい場所はなんとなくわかるらしい。

「もちろん入った瞬間に“まずい”って思うことはある。あと、やばい場所はすぐに機材の調子が悪くなる。よく聞くだろうけど、本当の話。でも、すぐにわかるようなケースは実は少ない」

 他に見分けるコツがあるのだろうか。

「笑われるかも知れないけど……僕がいつも確認するのはロケ弁。弁当だね。昼や夜、業者から届けられたロケ弁の味を廃墟の中で一口確認する。やばい現場だと弁当の傷(いた)みが早いんだ。そういう場合は、監督やプロデューサーに言って、弁当はもったいないけど廃棄して、食事はお菓子で我慢してもらう。『えっ、ここが?』っていう、一見何でもない場所が意外とやばかったりする」

呪いやたたりのような心霊的な怖さもさることながら、傷んだ弁当を食べて、お腹を壊しても、廃墟の付近でははまともなトイレもない。スケジュールをこなして、効率の良い撮影をするためには、そうした判断が作品のクオリティを左右するという。

「やばいと判断したら無茶はしない。それでも、やっぱりそういう場所では、あまり工夫しなくとも、不気味というか、雰囲気のある、いい画が撮れるんだ。ただ、終わった後は、スタッフで必ず手を合わせて『ありがとうございました』と一礼する。逆に、一見曰くありげな廃墟でも、なんでもないと判断したら、多少ハメをはずしても大丈夫だった」

 
事実、E氏が「安全」と判断した廃墟で、その後、知り合いが、セクシー女優を使って、かなりきわどい撮影を行ったが、全くトラブルは起きなかったという。

「でも、以前、ある廃マンションで撮影中、弁当のご飯がいつのまにかうっすらと緑色に変色して、変な臭いを放ち始めたことがあって……。こりゃ、いけないと早々に切り上げたんだけど。その後に、たまたま知り合いの会社が撮影をしたら、案の定、帰りに高速道路で事故ってしまって……。あの時、忠告しておけばって、今でも反省しているよ」

     



(「恐怖のお持ち帰り」より。画像はイメージ)