観る、観ないはあなた次第
※公開日の情報に誤りがありました。お詫びして訂正致します。
(×)10/31 → (〇)10/30(金)
陰謀説や都市伝説をホラーやユーモアと融合し、次々と大ヒット映画を製作。今やハリウッドを牽引する存在となったブラムハウス・プロダクションズが現代社会に突きつける衝撃の問題作『ザ・ハント』が10/30(金)より公開される。
本作も彼らの得意分野、ネット上に蔓延る陰謀論から着想を得て、“上流階級VS庶民階級”の二極化や、SNSでのヘイトスピーチなど現代アメリカが抱える問題を題材として盛り込み「人間狩りエンターテインメント」として過激に風刺。
公開直前の銃乱射事件発生や、アメリカ大統領が批判ツイートを投稿するなど、その過激な内容から物議を醸し、一度は全米公開中止にまで追い込まれた経緯がある曰く付きの映画だ。
残酷&激しいバイオレンス描写とモラルを破壊する表現で堂々「R」指定確定。
予測不能な展開をスピーディーに描く、戦慄のサバイバル・アクション―
「人間狩り計画」を企て、残酷な戦いを繰り広げる上流階級の謎の女には、2度のオスカー®に輝くヒラリー・スワンク。
セレブたちの計画を狂わせる庶民、美女クリスタルをベティ・ギルピン(「GLOW:ゴージャス・レディ・オブ・レスリング」)が演じる。
さらに、エマ・ロバーツ(「アメリカン・ホラー・ストーリー」)らフレッシュなキャストが続々出演。
製作を手掛けたのは『ゲット・アウト』、『パージ』シリーズで知られる社会スリラーのヒットメイカー、ブラムハウス・プロダクションズの要、ジェイソン・ブラム。
脚本は、「LOST」「ウォッチメン」などの大ヒットTVシリーズのクリエイター、デイモン・リンデロフら。
―「人間狩り」の真の目的とは?
息が詰まるほどの緊迫感と衝撃的な展開が待ち受ける。
【ストーリー】
広大な森の中で目覚めた12人の男女。ここがどこなのか、どうやって来たのかも分からない。あるのは巨大な木箱に収められた一匹の豚と数々の武器。すると突然の銃声とともに何者かに狙われる。武器を取り、逃げまどいながら、やがて彼らは気づく。ネット上にはびこる噂、“マナーゲート”―セレブが娯楽目的で一般庶民を狩る「人間狩り計画」が実在することを。しかし、“獲物”のひとりである美女クリスタルが予想外の反撃に出たことで、計画が狂い始め、やがてその陰謀の全容が明らかになっていく―
『ザ・ハント』が生まれた背景
陰謀説がはびこる現代:世間の主流となった被害妄想
2016年のアメリカ大統領選挙以降、多くの国民と同様に、デイモン・リンデロフ(製作/脚本)とニック・キューズ(製作総指揮/脚本)は「政局に深く興味を持った」という。
2人は両極化した政治情勢、従来のメディアの報道や、政府機関に対する不信感の増長について話し合ううちに、インターネット上の少数派の主張にすぎなかったが、やがて大勢の国民の意識に浸透していった数々の陰謀説について議論するようになった。
国民の日常生活の裏で本当は何が起こっているかについて語る陰謀説に対する支持は突如高まり、その点がリンデロフとキューズに特に興味を抱かせた。
「大統領選の後、人々の話題は以前と大きく変わったように感じた」とリンデロフは語る。
「陰謀説にすごく興味が湧いたし、当初はマイナーな意見にすぎなかったのに今では主流の考え方となった点にも惹かれた。陰謀説の中にはストーリーテリングとして素晴らしいものもあるから、陰謀説と事実との境界線はとにかく非常に不鮮明なものになった」
脚本家であるリンデロフとキューズが、陰謀説という「ウサギの穴」に落ちていったのはごく自然な流れだった。「何か主張をしようとか、政治や陰謀についてのストーリーを書こうと思ったわけじゃない」とキューズは語る。
「僕たちは常に人々を楽しませる面白い作品を作ることを大事にしているし、本作でも自分たちが面白いと思った物語を書いただけだ。昨今の社会や政治情勢を考えると、現実世界で起こっていると感じられるような題材を扱った作品の方が、僕たちにはより興味深いからね」
ダークで恐ろしい本作の前提として、重苦しい陰謀の世界の片隅で本作に登場する「獲物」たちが最も興味を持った“疑問”を追求することから始まる。
「こういった陰謀説がどこから発生したのか疑問に感じた」とリンデロフ。
「どういったタイプの人間が陰謀説を信じたのか?なぜ信じたのか?本作のストーリーを最終的に形成したのは、『陰謀説は事実ではないのに、その噂のせいで非難され日常生活を奪われた人々が、もし報復として陰謀説を実現しようとしたら?』という仮定だった。そしてそこから暴走が始まり、手がつけられない事態になってしまう」
もしも「自分たち」が悪人だったら?:
予測不可能なストーリー
右派と左派に存在する極端な党派心と、互いへの敵意がエスカレートし抑制が効かなくなった現状を考えると、既存の陰謀説や都市伝説を「権力を握った一部の裕福な人間が娯楽として人間狩りを行う」という設定に発展させたことは決して飛躍しすぎとは言えないだろう。
「エキサイティングな脚本を書いている時は、少し危険を感じるものだ」とキューズは言う。
「本作では現実の世界からかけ離れたストーリーを語っているわけじゃないから、執筆していて危険だと感じたよ。だから世間の反応が少し怖いと感じたけど、同時に執筆作業が面白くなった」
また、リンデロフとキューズは、ジェイソン・ブラムとブラムハウス・プロダクションズが世に送り出している、批評家に高く評価された新しいタイプの社会派映画からも刺激を受けたようだ。
「『パージ』シリーズや『ゲット・アウト』(17)など、ニックも僕もジェイソン・ブラム作品の大ファンだ」とリンデロフ。
「『ゲット・アウト』を見た時、ジェイソンとジョーダン・ピールがジャンルの限られた作品でも社会的なテーマを描けると証明したことに興奮したよ。ジャンルもの―『ゲット・アウト』の場合は少しSFの要素が入ったホラー・スリラー作品―として非常に娯楽的な作品でありながら、同時にシリアスなテーマを見事に扱っている。だから、僕とニックみたいなハリウッドの白人2人が今の世界情勢を描いたって、誰も気に留めないと思った。そういった作品はすでに大勢の映画人が作っているからね。でもこれはジェイソン・ブラム製作の作品だ。だからすぐにこう思ったよ、『僕たちが生きている今の社会に対する困惑や怒りを題材にした作品を作ったらどうか?そして、その怒りが見当外れなものだとしたら?僕たちは社会に対してではなく、自分たちに対して怒りを感じるべきかもしれない』とね。そこで、白人エリート層を悪役に設定して、そこから物語がどう展開するか、成り行きに任せた。後は知ってのとおりだ」
リンデロフとキューズはブラムに打診する前に脚本を執筆していたが、最初から本作を「ブラムハウス作品」として思い描いていた。
「それはつまり、特定のジャンルの作品として脚本を書きつつ、その中で興味深いテーマを取り上げ、劇場で観たいと思わせるような価値を加えることだった」とキューズは振り返る。
アクション、サスペンス、ドラマ、風刺、ホラーの要素を盛り込んだ『ザ・ハント』を、単純にジャンル分けすることは困難である。
「この映画にはホラーやサスペンス、コメディーが含まれているけど、大半はアクションだ」とキューズは続ける。
そういった全ての要素に対応できる監督が必要となり、クレイグ・ゾベルに白羽の矢が立った。
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最適な人材:クレイグ・ゾベル監督の起用
リンデロフが初めてクレイグ・ゾベルの名前を耳にしたのは、サンダンス映画祭で上映された『コンプライアンス 服従の心理』(12)が物議を醸した時だった。この作品は実話に基づく心理スリラーで、「この映画のことを知った時、見逃せないと思った。最初からラストシーンまで、とにかく見事な作品だった」とリンデロフは語る。
『ザ・ハント』の監督探しが始まり、「スリルとアクションと奇妙なユーモアの間で絶妙なバランスを取ることが求められる作品だから、クレイグこそ最適な人材だと思った。彼ならやれると信じていたし、実際そのとおりだったよ」と振り返った。
本作が持つ多様な要素やテーマをバランスよく表現する方法について、ゾベルには最初から非常に明確な考えがあった。
「現在のアメリカで起きている“二極化”をこの作品で取り上げるのであれば、遊び心のあるトーンで描くべきだと感じた」とゾベルは説明する。
「観客が笑顔になる作品にすべきで、集団で真剣に受け止めてしまうような内容にするのは避けるべきだと思った。適切なトーンで描くことが必要不可欠だった。ストレートなホラー映画や政治スリラーにしてしまうのは、本作にとってベストとは言えない。風刺的なユーモアを表現することが非常に重要だった」
また、ゾベルは最初から本作を強烈なビジュアルで描きたいと考えていた。
「僕にとってはポップな映画にすることが大事だったし、その点はプロダクション・デザインから衣装デザイン、セットにいたるまで一貫して浸透している。モダンでアメリカ的で美しいビジュアルにすることで、僕たちが理想とする遊び心あふれる風刺的なトーンを表現したかった。例えば硬派なホラー映画として作ってしまうと、本作に欠かせないユーモアが台なしだ」
この点は本作に頻繁に登場するグラフィック的な暴力描写にも表れている。
「暴力シーンはハードコアなホラー映画よりも、スラップスティック(ドタバタ喜劇)に近い感じで表現し、そのばかばかしさを強調したかった。『死霊のはらわたII』(87)などのサム・ライミの初期作品に見られるような、グロくて、ばかげていて奇抜で笑える映画にしたかった」
キューズもゾベルの手腕に感心したようだ。
「クレイグは驚くべきビジョンの持ち主だ。その点はロケーションや衣装、撮影技法によく表れている。こういった作品の製作では膨大なエネルギーが必要とされるし、クレイグが現場でエネルギーを生み出す様子を見るのは本当に楽しかったよ。現場で新しいアイデアが出されることによって多くのエネルギーや動きが生まれるし、クレイグは非常に優れていた。本編の面白いシーンの多くは現場で思いついたものなんだ」
現場でアイデアが生まれる自発性は、本作にとって特に重要だとゾベルは言う。
「本当に楽しい撮影だったし、それが重要なポイントだったと思う。現場でドリーを押しているスタッフが思わず笑いそうになっていたし、皆が楽しんでいたから、そういった雰囲気が本作にも反映されているはずだ」
ゆがんだ恐怖を描く巨匠:
ジェイソン・ブラムの参加
陰謀説や都市伝説をホラーやユーモア、社会的な主張と融合させた製作は、ブラムハウス・プロダクションズの要であるジェイソン・ブラムの得意分野となった。オスカー®受賞の大ヒット作『ゲット・アウト』や、『パージ』シリーズとTVドラマ版の製作を務めたブラムは、社会的な主張とホラーやサスペンス映画の典型的な要素をうまく融合させ、お決まりの展開を覆す「社会スリラー」という新ジャンル誕生の大きな原動力となった。
本作の脚本を読んだブラムは、リンデロフ、ゾベル、キューズの3人が自身の製作会社でこの映画を作ってくれることを望んだという。
「脚本を気に入ったからすぐにデイモン(・リンデロフ)に電話した」とブラムは振り返る。「『ザ・ハント』は第一印象がいかに間違っているかを描いた素晴らしい物語だ。この作品はホラー映画だが、風刺に富んだ社会スリラーでもある。ジョーダン・ピールの『ゲット・アウト』では人種問題を、『パージ』シリーズでは主に銃規制を題材としているが、本作 のテーマは『第一印象』だ。ダークな風刺映画でありながら、エキサイティングで恐ろしい優れたホラー映画でもある」
ブラムはリンデロフとキューズが本作の政治的な要素に対して公正なアプローチを取った点にも賛辞を贈る。
「この作品では、一方を贔屓することはしていないが、我々が他人に対していかに簡単に決めつけるかという点を指摘している。なぜ一方だけを贔屓するのかを掘り下げたかったし、本作の注目すべき点だ」
リンデロフとキューズの脚本を最適な形で映画化できるクレイグ・ゾベルが監督を務めたことも幸運だった。
「クレイグには本作に対する非常に明確なビジョンがあった」とブラムは続ける。
「優れた技術と独自の視点を併せ持った監督だし、私たちとの取り組みも積極的だった。この映画にとってベストなアイデアを見事に選び出し反映させる優れた手腕を見せてくれたよ。彼こそ本作にとって完璧な監督だ」
アイデアと
インスピレーションについて
「人間狩り」という新しく危険なゲームの誕生:
1930年代の名作『猟奇島』から得たインスピレーション
1932年公開のRKO製作『猟奇島』(原題:The Most Dangerous Game)は、人間による人間狩りを題材とした初の、そして最も有名なサスペンス・スリラー/ホラー作品である。孤島の屋敷に住む狂気に満ちたザロフ伯爵(レスリー・バンクス)が、自分の島に船が座礁するように仕向け、生存者を狩るという物語である。同作が成功を収めたことでリメイク版として『恐怖の島』(45)や『太陽に向って走れ』(56)が製作され、今日に至るまで数々の「人間狩り」をテーマとした作品が生まれるきっかけとなった。
「“娯楽”のために“狩られる”人間を描いた映画は昔から存在するし、中でも『猟奇島』は最も有名だ」とリンデロフは語る。
「本作の脚本を執筆する上でそういった作品から影響を受けたし、特に田舎の人間と衝突し手に負えない事態に陥った都会の男たちを描いた『脱出』(72)の要素が『ザ・ハント』に反映されている。場違いな人間や異質な存在といったアイデアは、この映画から得たものだ。『ザ・ハント』を構成する骨子は非常に暴力的なアクション・スリラー・サスペンスだが、核の部分にあるのは風刺だ。うぬぼれだと思われたくないけど、僕たちの目標は『博士の異常な愛情』(64)や『ゲット・アウト』のように政治的な主張を持った作品にしつつ、トロイの木馬的に、実際の中身は見た目とは違う娯楽的なものにすることだった」
本作のストーリーをうまく展開するためには、“狩る”側の人間の動機を説明することが重要だとリンデロフとキューズは理解していた。
「なぜ人間狩りをするのか、信ぴょう性のある理由が必要だった」とキューズ。
2人はアメリカ合衆国憲法修正第5条に論拠を見いだした。同条は、サスペンス・スリラー、『ダブル・ジョパディー』(99)で描かれている。夫殺しの罪に問われた女性が、実は夫は生きており自分を罠にはめたと知り、夫を追跡する物語である。修正第5条により、彼女は同じ罪で2度起訴されることはないため、本当に夫を殺しても再度罪に問われることはないのだ。
「この第5条を本作のストーリーに当てはめてみた。人間狩りをしているという陰謀説によって非難され、人生を台なしにされた人々がこう考える。『どうせみんな自分たちが人間狩りをやっていると信じ込んでいるのだから、本当にやってしまえばいい』とね」とキューズは続ける。
TVシリーズ「ウォッチメン」、「LEFTOVERS/残された世界」で組むリンデロフとキューズによると、破壊的でダークユーモアにあふれた脚本の原動力は、常に互いを驚かせ楽しませようとする企みによるもののようだ。
「デイモンと作品について話し合う時はいつも、お互いに相手を笑わせることができるようなアイデアを提案しようと頑張る」とキューズ。
「あるアイデアに対して2人とも笑っているなら、それはいい作品になるという証しなんだ」
誰も信じるな:真実の退化
右派と左派が互いの発言を「フェイク・ニュース」だと非難し合っている昨今の社会では、信じられる人物を見抜き真実とウソを見分けることが一層難しい。それゆえ、多くの人が喪失感を埋めるために陰謀説を信じるようになった。
「エリート層や自分とは異なる立場の人々に関するクレイジーな陰謀説が数多く存在し、多くの人がそれを真実だと思い込んでいる。そういった点を本作のテーマとして検討しているうちに、これは面白い映画になると思った」とリンデロフは振り返る。
近年、“二極化”や“疑惑”をあおるような報道が続いているせいで、主流メディアに対する人々の信頼は失われる一方である。現実社会で立場が異なるグループ間での不信感と憎悪が高まる中、『ザ・ハント』は敵対するグループに関する最悪の陰謀説が真実だった場合の状況や、それに対する人々の行動について描いている。現在のデジタル社会では、思い込みや誹謗中傷が、メールやテキストメッセージで容易にやり取りされ、ターゲットとなった人物の名声や人生をめちゃめちゃに破壊してしまうのだ。リンデロフとキューズは、ソーシャルメディアやダークウェブ上で生まれた軋轢を招く憶測が陰謀説へと発展し、その陰謀説によってかつては揺るぎない個人主義と文化の多様性を誇ったアメリカが、いかにして滑稽な風刺画のような国へと変貌していったかを本作を通して描きたかったという。
「登場人物たちが持っている信念や意見についてはあまり深く掘り下げないようにした。それよりも、アイデンティティ・ポリティクス(主に社会的不公正の犠牲になっているジェンダー、人種、民族、性的指向、障害など)に基づく集団の利益を代弁して行う政治活動や異なるグループに対する思い込み、そしてその思い込みが大抵の場合は間違っている点を表現することに興味があった」とリンデロフは語る。
本作は誇張された手法で右派と左派の間の緊張関係や怒りを分析することで、この軋轢がいかに実体なく被害妄想的なものであるかを表現している。
もしも、登場人物の全員が
“マリオン・クレイン”だったら?:
ヒッチコック作品(『サイコ』)の影響
脚本の執筆を進める中でリンデロフとキューズは、サスペンスやホラー映画におけるお決まりのシーンは排除し、徹底的に観客の期待を裏切り驚かせることを決心した。
「観客はこれまでに映画やテレビドラマをたくさん見ているから、登場人物が幽霊屋敷に入ったら何が起こるかすでに分かっている」とキューズは言う。
「だから、この映画の登場人物がドアを開けて中をのぞいた途端、叫びながら反対方向へと走っていったら面白いと思ったんだ。お約束の展開じゃないからね。観客はたくさん映画を見るうちに次の展開を予測できるようになってしまうから、本作ではとにかく期待を裏切ることにフォーカスした。お決まりのパターンを覆すには、お決まりのパターンの理解を深めるんだ」
2人は冒頭で一連のキャラクターを登場させてすぐに殺すことで、従来のストーリー構造を完全に放棄した。ヒーローや主人公だと思われる人物があっという間に無残な死を遂げるこの作品は、「主人公や主要キャラクターはオープニングに登場してポジションを構築し、第3章か最終章まで生き残る」という脚本の基本ルールを破っている。
「観客はヒーローに共感を覚えるから、早い段階で死を遂げるような作品はほとんどない。ヒーローを殺すと、観客はその後の展開に興味を持たなくなってしまう」とリンデロフは説明する。
「だから登場してすぐに次々と殺してしまえば、観客がその人物に共感する余地もないし、次の展開により興味を持ってもらえると思った」
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2人の決断を後押ししたのが、ヒッチコック監督の名作『サイコ』(60)である。
観客の予想を裏切る点で先駆的な作品である本作は、ヒロインのマリオン・クレイン(ジャネット・リー)をオープニングシーンで登場させ、本編の初めの3分の1までは彼女をカメラで追い、第1章が終わる前に殺している。
「あの有名なシャワーのシーンでジャネット・リーが殺され、2番手だったノーマン・ベイツが突然主人公になる」とリンデロフは続ける。
「そこで、『ザ・ハント』でも冒頭の15分か20分の間に『サイコ』的な展開を何度も繰り返すことを思いついた。『もしも主人公のようなキャラクターたちが冒頭に次々と登場し、その後すぐに殺されたら?』と考えたんだ」
だが、それだけでは十分とは言えなかった。
ホラーやサスペンス映画のファンは、見ているうちに何が起こっているのかをすぐに把握する傾向が高いため、2人は登場人物のスクリーン滞在時間を徐々に長くするという巧妙な強化策を取った。
「最初は観客も展開を読もうとするが、何度も予想を裏切られるうちに降参し、予想外の展開へと導いてくれそうな本作を純粋に楽しんでくれるはずだ」とキューズは言う。
本作のヒーローがやっと登場するのは、冒頭から約25分経った頃だ。ベティ・ギルピン演じるクリスタルが、沿道のガソリンスタンドに足を踏み入れるシーンである。リンデロフは言う。
「この時点で、観客がクリスタルも死ぬと思ってくれることを望むよ。もしそれが結末であるならね」
【作品概要】
タイトル『ザ・ハント』
監督:クレイグ・ゾベル 製作:ジェイソン・ブラム 脚本:ニック・キューズ、デイモン・リンデロフ
出演:ヒラリー・スワンク、ベティ・ギルピン、エマ・ロバーツほか
配給:東宝東和
原題:THE HUNT
2020年 / アメリカ / スコープ・サイズ / 上映時間 : 90分
字幕翻訳 : 種市譲二 / 配給宣伝 : 東宝東和 / 提供 : ユニバーサル映画 公式Twitter:@the_hunt_jp
公式HP:https://www.universalpictures.jp/micro/the-hunt
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