サム・ライミ監督&スティーヴン・キング大絶賛
「恐ろしく、気持ち悪く、よくできている」
過去20年間のフランス・ホラー映画史上でNo.1ヒットを記録し、スティーヴン・キング、サム・ライミ監督から絶賛された、新鋭セヴァスチャン・ヴァニセック監督による毒グモパニックホラー『スパイダー/増殖』(原題:Vermines)が、11月1日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国順次公開される。
この度、本作の公開初日を記念して、セヴァスチャン・ヴァニセック監督への単独インタビューを掲載する。
『スパイダー/増殖』公開記念!
セヴァスチャン・ヴァニセック監督単独インタビュー!
CGにも役立った、200匹の生きたクモへの“演技指導”とは!?
次回作『死霊のはらわた』最新作の進展状況についても
――ホラーファンの間では、長く「クモ映画に傑作なし」と言われてきましたが、ようやくそのジンクスを覆す作品が誕生したと、うれしく思います。
セヴァスチャン・ヴァニセック監督 ありがとうございます。
――閉ざされた場所を舞台に、猛毒クモの増殖の恐怖をこれでもかと描きつつ、同時に貧困や人種差別、パンデミックといった様々な現代の問題を絡めたドラマとしても非常に見応えがありました。監督自身はどんな作品を目指したのか、企画された意図を教えてください。
ヴァニセック監督 私がこの映画を作ったのは、大きく二つの意図があります。一つは、お金を払って映画館に観に来てくれたお客さんに「すごく楽しめた!」と喜んでもらえるようなエンタメ性。そして、もう一つが社会的なメッセージ性です。あなたが指摘された通りですね。エンタメ性とメッセージ性の二つの側面にこだわって、この映画を撮りました。
ーー脚本作りでは苦労されましたか?
ヴァニセック監督 いや、そんなに苦労はしなかったんです。なぜなら、共同脚本家のフローラン・ベルナールが、私とは正反対の、緻密で論理的な脚本作りをするタイプだったから。私はどちらかというと、今まで見たことのないストーリーを感性に訴えて作っていくタイプ。だから二つの相反する、対照的な感性や脚本のセンスがバランスよく融合することで、これまでにないリアルで面白い脚本を生み出せたんじゃないかと思っています。
――ホラーファンからするとやはりあのクモをどう撮ったのかが非常に気になります。劇中のクモはどこまでが本物なのでしょうか。それとも全てCG?
ヴァニセック監督 本当はすべてCGでやりたかったんですけど、予算が限られていたので、一部、本物のクモを使いました。結果的に作品のリアリティが増したので、良かったです。
――“一部、本物のクモを使用”というのは、どのくらいの数ですか。10匹ぐらいですか?
ヴァニセック監督 全部で200匹ぐらい。
――200!!
ヴァニセック監督 まあ、200匹を同時に撮影に使うのではなく、1匹ずつ使ったんです。クモの撮影というのは、その特性から、「一匹の撮影時間は一度に20秒まで」とすごく短くて決められていたので、そこは気を付けて撮影しました。
――撮影時間が一匹わずか20秒ですか。
ヴァニセック監督 ほんと、スター並みの扱いですよね(笑)。実際、腫れ物に触るように大事に大事に“クモ様”の意向を尊重して撮っていきました。
そうそう、一度だけ撮影現場でクモが逃げ出したことがあって、その時はすべての撮影がストップしてスタッフ全員で探しました。結局、椅子の下に隠れていたんですけどね。
CGやVFXにも役立った、
生きたクモへの“演技指導”
――やはり撮影は大変でした?
ヴァニセック監督 クモというのは本来すごく敏感で繊細な生き物なんです。扱いがとても難しいとよく言われる。だから撮影にあたって、その特性を理解することから始めました。でも一度その扱いに慣れてしまえば、そこまで難しくないんです。かわいいもんです。
ーー具体的に撮影で意識したクモの特性とはどんなことですか。
ヴァニセック監督 例えば、暑いとよく動いて、寒いと止まるとか。だんだん慣れてきてわかってくる。クモが巣でずっと止まったままのシーンを撮影する場合、わざとクモを走らせて、疲れさせてから、クモの巣にとどまっているように固定して撮影したり。クモの特性がわかればわかるほど撮影はスムーズになっていきました。
――“共演”の役者は怖がらなかったんですか。
ヴァニセック監督 最初はすごく怖がってました。気持ちはわかります。見た目は猛毒のクモと同じだから。
――撮影に使ったクモには毒はなかった?
ヴァニセック監督 もちろん有毒ではないクモを使っています。現場にはクモの飼育の専門家にも来てもらって、俳優もスタッフも説明を受けていました。万が一刺されても安全であることも聞いていたので、不安はなかったかな。実際、刺された人は一人もいなかった。まあ、この映画自体、「外見だけで判断してはいけない」っていうメッセージも込められているからね(笑)。ある意味、テーマにも合っているし、CGだと、ここまでの緊張感にはならない。役者たちもクモに対する恐怖心を逆手に取って、よりリアルなリアクションの芝居をしてくれたりとか、結果的に本物のクモを使ってよかったことが多かった。
――クモの動きもとてもリアルで不気味ですが、どんな“演技指導”をされたんですか。
ヴァニセック監督 ホラーっぽいクモの動きの多くはCGなんだけど、そのCGの参考にしたのは、現場にいた200匹のリアルなクモたちなんだ。クモって足が8本あるので理論上はどこへでも行けてしまう。その細かな、理にかなった8本の足の動きについても、現場の撮影でつぶさに観察し、その特性をしっかり学んだ上で、CGに応用できたというメリットがあった。
ーー過去にもクモのホラー映画はたくさんありましたが、参考にした作品はありますか。
ヴァニセック監督 ぶっちゃけ他のクモの映画は一つも見ていないんです。理由は、とにかく誰も撮ったことがないような、リアルで怖いホラー作品を目指したかったから。そうするしか観客を引き付けることはできないと思っていましたた。だから他のクモ映画を意識する必要はないんです。クモに限らず、2023年の時点で、動物を扱ったナチュラルホラーはあえて一つも見ていません。
影響を受けた監督
そして次回作『死霊のはらわた』最新作について
ーー作品的には、『エイリアン』シリーズへのオマージュを感じさせるシーンもありますが。
ヴァニセック監督 確かに『エイリアン』は、この作品と近い部分もあると思います。閉じ込められた空間で登場人物が未知の恐怖と対峙していくシチュエーションは、サバイバル映画の側面としても、意識せざるを得なかった。ただ一つ違いがあるとすれば、『エイリアン』の中では、生物はモンスターというか絶対的な悪として描かれている。一方、この映画ではクモはクモなりに自分を生きようとしている。登場人物にとっては、あくまで“人間対クモ”だけど、それぞれが生き延びようと必死になっているし、その中で描かれる“本当の恐怖”というのは、例えば治安とか、郊外の問題とか、警官の存在とか、物語が進むにつれてその対象が変わっていく。そこが私の映画と『エイリアン』との違いじゃないかなって思います。
――なるほど。じゃあ、特に意識した作品や監督はいない?
ヴァニセック監督 そうですね。今回の撮影にあたって、なるべく他の映画を意識しないように心がけました。私自身、今まで多くの短編を撮って、私なりの撮り方や演出の方法がわかっていたので、(他の監督の)影響を受けたくなかったんです。
でも…今までの私の人生の中で、最も影響を受けた監督を一人挙げるとすれば、やはりリドリー・スコット(『エイリアン』)になります。
彼の演出、特にバトルシーンとか、あるいは登場人物の内面をすくい取るようなシーンの巧さは、間接的にですが、かなり影響を受けていると思います。
ーーあと舞台となるマンションの外観のデザインが非常に印象に残りますが、あれは実在するのですか。それともCGですか。
ヴァニセック監督 実在します。私が育ったパリ郊外にある、大好きな建物です。今まで撮った短編も、この建物から着想を得ているものがたくさんあって、本当に親しみやすく、思い入れがあります。
――実際に存在するんですね。てっきりCGと思いました。
ヴァニセック監督 昔から知る人ぞ知る有名な撮影場所ですね。これまでも『未来世紀ブラジル』や『ハンガーゲーム』なんかのハリウッド映画も撮られていて、すごくアイコニックな場所になっています。
――今後の予定として、「死霊のはらわた」シリーズのスピンオフ新作の、共同脚本と監督を手がけられると聞いていますが、実際にもう撮影に入ったのでしょうか。現在の進展具合を教えてください。また、このスピンオフをどんな作品にしたいのか、教えていただけますか。
ヴァニセック監督 今、シナリオが終わるところかな。もう最終局面に来ています。
――おおっ、じゃあ、クランクインも近い?
ヴァニセック監督 順調にいけば、撮影は2025年の春から始まると思います。
今回、サム・ライミをはじめとするプロデューサーから、非常にたくさんの自由を与えてもらって、しかもオリジナルストーリーということもあって、私の世界観を思い通り自由に描き込めています。もちろんアメリカ映画の中におけるヨーロッパという自分の存在意義というか、アイデンティティもしっかり理解しながら、自分にしかできない、本当に怖くて力強いホラー映画を目指しています。
――大変楽しみにしております。では、最後に観客に向けて、メッセージをお願いします。
ヴァニセック監督 世界中の誰もが、心底怖くなれる作品になっていると思います。ぜひ映画館で、手と手を取り合って極限の恐ろしさを楽しんでほしい。そして家に帰ってきた頃に、私がこの映画を通して皆さんに伝えたかったメッセージが少しでも伝わっていたら、うれしいですね。
――ありがとうございました。
伊藤潤二、ナマニク、小島秀夫、サイプレス上野、土岡哲朗ら
著名人の絶賛コメント(敬称略・五十音順)
伊藤潤二(漫画家)
あの放射状の姿だけで嫌なのに、猛スピードで走り回り、猛毒と異常な増殖で無敵の厄災を撒き散らすクモの群れ!
アパートの薄暗さがさらに恐怖を増長させる。最初から最後まで怖いわ気持ち悪いわで目が離せませんでした。
それにしてもあのクモは一体なんだったのだろう?
氏家譲寿(ナマニク)(映画評論・文筆家)
踏むと子グモが散らばる!放っておくとデカくなる!噛まれると苗床にされる!クモが好きでも嫌いでも“虫唾”が迸る。
だが、異なる人種の人々が協力、友情と築きながら絶望的な状況に立ち向かう姿に胸が沸く。
クモに対する“虫唾”と異人に対する“理解”の対比に強烈な皮肉を感じる、知的さも感じる凶悪かつ知的なクモ映画に感服だ。
小島秀夫(ゲームクリエイター)
蜘蛛が益虫である事は知っているし、子供の頃から、スパイダーマンも好きだった。
この手の“蜘蛛パニック”映画も沢山観てきた。
しかし、このフランス産”スパイダー“はヤバい。猛烈にキモい。
造形も大きさも動きも、その繁殖能力にもゾッとする。
鑑賞中、身体中がずっと痒かった。
パリ・オリンピック開催後の今観ると、風刺が効いていて、さらに痒い。
猛毒性の蜘蛛映画だ。
サイプレス上野(ラッパー)
果たして自分があの状況に陥ったら家族や仲間を助けられるか…でも逃げたい!
日本のことわざに習い、なるべく蜘蛛は駆除しないようにしてますが、ちょっと考えちゃいました(可哀想だけど)同じ様に団地で暮らし、全く同じ様な飼育部屋を作り上げてた友達の兄貴を思い出しつつ、やっぱHIPHOPがハマるよな〜ってブチ上がりました!
陣野俊史(フランス文化研究者・作家)
増殖しつづけるクモはたしかに怖い。
だが画面を見続けながら考えていたのは、外からやってくる存在を、私たちは理不尽に怖がっていないか、ということ。
そして、眼をみはるのは、警察の非情さと対比される、郊外の、老朽化した団地に住む者たちの、希望の虹のような連帯と愛情だ。
フランスの郊外(バンリュー)映画の系譜に、またひとつ、気になる映画が加わった。
SCANDAL RINA(ミュージシャン)
クモの巣の真ん中に閉じ込められたような絶望感と閉鎖感。
不規則なタイミングで飛び込んでくる映像に新鮮な恐ろしさがあった。
シンプルにビッグサイズのクモの群れ怖すぎる。
絶体絶命、取り扱い注意のパニックホラー。真っ暗な映画館でぜひ。
土岡哲朗(お笑い芸人)
蜘蛛の怖さを的確にホラーにし過ぎている!
あのゾッとしてしまう蜘蛛のビジュアルと動き方。
それがそのままホラーになると気づいてしまった監督。
こんなに怖いものを容赦なく見せてくるなんて、人でなし……。
主人公は、自分の暮らすアパートへの思いが強い青年。
しかし、そこに危険な蜘蛛を持ち込んでしまいパニックに。
大切な場所に閉じこもることはもうできなくなった彼は、変われるのか。
中田兼介(クモ研究者・京都女子大学教授)
数あるクモ映画のなかで本作は、素のクモで勝負しているのがポイント。
遺伝子操作や化学物質でモンスター化するのでなく、(少し成長しますが)超巨大化とも無縁です。
能力が盛られている面はあれど、歩き方などリアルで、何よりやたらと人間を敵視しているわけではないのが素晴らしい(現実のクモも人間に対して積極的に攻撃はしません)。
クモたちは、彼ら彼女らを疎む人間に反応しただけで、ある意味被害者です。警察から不当に扱われる主人公たちと重なります。
クモは裏の主人公かも。
INTRODUCTION
新鋭セヴァスチャン・ヴァニセック監督、衝撃のデビュー作
『スパイダー/増殖』は、主人公カレブが毒グモを手に入れ、そのクモが脱走。カレブたちが住むアパ―トで繁殖・増大し、次々と住民たちに襲い掛かる姿を描いた絶叫必須&スリリングなパニックホラー。
監督は、1989年生まれの新鋭、セヴァスチャン・ヴァニセック。衝撃のデビューを果たした本作は、過去20年間のフランスでのホラー映画で初登場第1位を記録。約27万人を動員する大ヒットとなり、第49回セザール賞 最優秀新人監督賞と最優秀視覚効果賞にノミネート、第35回シッチェス・ファンタスティック映画祭 審査員賞を受賞した。
また、ロッテントマトでも95%フレッシュをたたき出し、ホラーの帝王スティーヴン・キングは「恐ろしく、気持ち悪く、よくできている」と絶賛。さらに、サム・ライミ監督から『死霊のはらわた』シリーズのスピンオフ作品の共同脚本兼監督のオファーを受け製作が決定するなど、ヴァニセック監督の活躍の勢いは止まらない。
本作は、毒グモの恐怖に怯える人間たちの姿を描くだけではない。フランスの郊外で生まれ育った監督自身の経験も踏まえ、郊外は犯罪が蔓延し不快であると看做される都市部からの差別問題を、外見で判断され忌み嫌われるクモと、出身地だけで判断される郊外出身者との間に類似点を見出し、本作の構想に取り掛かったという。カメラワーク、キャラクタービジュアルなどの絵作りのアイデアは、監督自らの手で全てシナリオに書込み、低予算ながらも刺激的でエッジの効いた演出が光るパニックホラーが誕生した。
【STORY】
パリ郊外の団地で暮らす、エキゾチックアニマル愛好家のカレブ(テオ・クリスティーヌ)はある日、珍しい毒グモを手に入れる。日々、スニーカーの転売で稼ぐカレブは、同じアパートに住むトゥマニから注文を受けたスニーカーを渡す。その直後、原因不明の死を遂げるトゥマニ。警察は謎のウィルスが発生していると判断し、建物は封鎖され住民たちは閉じ込められてしまう。その裏で、カレブの購入した毒グモが脱走し、猛スピードで繁殖し始めていて……。
作品タイトル:スパイダー/増殖
監督・脚本:セヴァスチャン・ヴァニセック 製作:ハリー・トルジュマン 脚本:フローラン・ベルナール 撮影:アレクサンドル・ジャマン 音響:セザール・マムーディ サミー・バルデ セットデザイナー:アルノー・ブニオール VFX:ティエリー・オニロン
出演:テオ・クリスティーヌ ソフィア・ルサーフル ジェローム・ニール リサ・ニャルコ フィネガン・オールドフィールド
©2023 MY BOX FILMS – TANDEM All Rights Reserved
2023年/フランス/106分/2.39:1/フランス語/原題:Vermines/カラー/5.1ch/字幕:大塚美左恵/配給:アンプラグド HP:unpfilm.com/spider
11月1日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開
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