誕生から25年―。伝説的作品・Jホラーの原点
Vシネマ版「呪怨」「呪怨2」の2作品が、誕生から25周年を記念して初の「4K&5.1chサラウンド化」!『呪怨〈4K:Vシネマ版〉』 『呪怨2〈4K:Vシネマ版〉』として、8月8日(金)より新宿バルト9ほかにて同時劇場公開中だ。
「cowai」では、清水崇監督に単独ロングインタビューを敢行。
超低予算、超短期間の撮影スケジュール、短編を2本発表しただけの20代の無名の新人監督が、絶望的な逆境を乗り越え、いかにして伝説の傑作を生みだしたのか。
全3回の特別連載企画「清水崇 原点の創作術」でその全貌を明らかにする。
第2回はいよいよVシネ版の制作に突入した、その舞台裏を明らかにする。
Jホラー・ファン、「呪怨」ファンはもちろん、「呪怨」が生まれる前の若い世代や、映画監督志望の人にもぜひ読んでほしい記事だ。

また、映画公開を記念して、清水監督による“呪!!25周年!”サイン色紙を抽選で1名様にプレゼントします。応募方法はこの記事の後半か、第1回の記事↓を参照。
「監督、いいの?パンツ見えちゃうけど」
従来のJホラーとは“違う”衝撃の撮影現場!
『呪怨〈4K:Vシネマ版〉』公開記念!
特別連載企画「清水崇 原点の創作術」第2回(全3回)!

超低予算、超短期間の撮影、短編だけの20代新人監督…
絶望的な逆境を乗り越え、伝説の傑作はいかにして生まれたのか。
清水崇・単独ロングインタビューで明かされる《原点の創作秘話》
【前回のあらすじ】映画美学校を経て、黒沢清の紹介で、特番ドラマ「学校の怪談G」のオムニバス内にて、清水崇は二本の短編を完成させる。それは白い男の子(俊雄/短編「4444444444」)と白い女の幽霊(伽椰子/短編「片隅」)の話で、高橋洋(『リング』脚本家)が絶賛。プロデューサーの一瀬隆重を紹介し、一瀬から、V シネ枠で「怖ければ何でもいいから、好きにプロット書いてみて」と依頼され、Vシネ版『呪怨』の企画がスタートする。
清水崇:さあ、やりたいことはいくらでもある状態だったけど、何を(話の)ベースにしようと考えた。
それで、「学校の怪談G」の時に出した、男の子と女の、二つの幽霊が実は親子で、おそらく死んでいるんだろうけど、霊魂になってお互い、母を求め、子を求め、あの世をさまよっているがためにいろんなところに出てくるっていう話を考えた。
どうせ監督をやらせてもらえるチャンスなんて、今回が最後かもしれないし、やりたいことは全部やりたいと考えた時、僕が大好きな『デカローグ』という映画の構造を使えば、短編のオムニバスのように見えて、実は繋がっている世界観の話ができる。こうやって作品の構成が出来上がった。

――台本のタイトル、つまり当初のタイトルが『呪怨霊』になった理由は?
清水:当時『女優霊』『リング』が流行った後だったんで。東映ビデオのプロデューサーはタイトルに「“霊”をつけたい」。“なんとか霊”にしたいと。ちょうど『呪怨』の前に、別の監督が撮った(オリジナルビデオの)『愛人霊』って作品なんかがあって、“なんとか霊”シリーズにしたいっていう。つまり『呪怨霊』。もうその二番煎じの、浅はかなネーミングが本当に嫌で、ずっと反対し続けましたね。
それでも結局、インの時は『呪怨霊』のまま、ずっと現場を回していた。台本の表紙も『呪怨霊』。撮影中も反対し続けていたら、最後の仕上げ、タイトルを入れる時に、「監督がそこまで言うなら…」って、ようやく“霊”を取らせてくれて、ギリで『呪怨』がOKもらえた。
その後、ビデオがリリースされて、口コミで『呪怨』が話題になった途端に、「監督はネーミングセンスあるよね」って言われて、うーん、まあ、そういうもんですよ、世の中。でも、そういう生意気なところ、とんがってたところも含めて、若さゆえの過ちというか、あるんでしょうね。

「監督、これいいの?パンツ見えちゃうけど」
従来のJホラーとは“違う”衝撃の撮影現場

清水:(Vシネ版『呪怨』の現場は)助監督をはじめ、スタッフはみんな年上。だから全然なめられてましたね。予算がない中で、こんなどこの誰かもわからない、小柄な若造が来て、あれこれ言いたいことばかり言うのに、よくついてきてくれましたよね、皆さん。
照明だって、ライトは三つぐらいしか借りられない、いや、二つが限界みたいな状態。スタッフ的には予算の中で頑張ってくれているんだけど、こっちも必死。だからスタッフ、特に照明技師さんとは喧嘩越しでしたよ。まあ、プロデューサーはプロデューサーで面白がって「長編の初現場で、照明部と喧嘩してる監督、初めて見たよ」って言われましたけどね。
たまたま照明助手の人と帰り道が一緒になった時、「正直さ、あんなライティング見たことある?」って聞いたら、「いや、ないですね。でも、すいません。予算がなくて」って言われて。僕も「あ、そっか。(監督って)そういうこともちゃんと考えて発言しなきゃな」って、勉強しながらの状態だった。今思えば頑張ってくれてたスタッフにひどい態度取ってたかもなって。
「いやいや、もっと堂々と(照明を当てて)!
何のために子供の体、白く塗ってるんですか!違うんですよね」
ーー照明、つまりライティングはホラー演出の要です。具体的にどんなシーンで照明部と喧嘩腰になったんでしょうか。
清水:如実だったのは、当時『リング』がヒットした後で、「(幽霊が)見えそうで見えない」「ぼんやりしている」「こっそり後ろにたたずんでいる」みたいなのが主流になっていた。僕はそうした幽霊を、鶴田法男監督の「ほん怖」(OV版「ほんとにあった怖い話」)シリーズで見ていたし、僕も「(ジャパニーズ・ホラーは)こうあるべきだ」って思っていた。もちろん“小中理論”(※)もよく知っていた。でも、それが一般に浸透して、主流になった後で、年も10歳以上下の僕が同じことやっても「つまんないじゃん」と思った。表現が発展、進化しないんですよ。監督をするなら、 “なるべく誰かが編み出したのじゃない”のをやりたい。そこは「もう笑われてでも(新しいことをやる)」と覚悟を決めていた。
照明技師さんも、限られた照明機材で気を遣って、(幽霊らしく)ぼんやりさせたりとか、影だけで表現したりとか、してくれてたんですけど。僕は「いやいや、もっと堂々と(照明を当てて)!何のために子供の体、白く塗ってるんですか!違うんですよね」って。相手も「監督、これいいの?パンツ見えちゃうけど」「大丈夫です。ドーンって正面から当ててください!」って押し切った。内心(わかってないな)と思いながら、そりゃ、(前例がないから)わかんないよねって。
一瀬さんにも現場で言われましたよ。「清水監督も、『好きだ』って言っていた小中(千昭)さんの理論ではこうだし、鶴田監督もこう言ってるけど」って。だから僕は「それはもう先人の言うことなので、僕はその後輩で、同じことはしたくないんです」って言ったら、「あ、分かっていてやってるならいいけど」って。一瀬さんとはそんな話をしましたね。
※小中理論…初期には『邪願霊』『ほんとにあった怖い話』などのジャパニーズ・ホラー(黎明期)の脚本でも知られた脚本家・小中千昭が提唱する、ホラー映画の表現方法などに関する理論。ジャパニーズ・ホラーに大きな影響を与えた。小中の著書『ホラー映画の魅力』(岩波書店)に詳しく記載されている。
【小中理論が最も色濃く反映された、“Jホラーの父”鶴田法男の傑作、OV版「ほん怖」シリーズ】
清水:(台本を書いて)自分の中では、(表現したい)画はある程度できていたけど、とにかく予算も時間もなかった。ここには書けないような、うまく回らないこともあって、「ああ、無理だ」って思ったことも何度かありましたね。
美術とかも、ありえない状態でしたよ。
今回、Vシネマ版を久々に監修させてもらって見直すと……部屋に飾ってある絵とか、ほぼ僕が家から持ち出してるんで、恥ずかしくてしょうがない。
大学生の時に描いたイラストみたいなものを飾っていたり。見れば見るほど、隅から隅まで僕の絵なんですよ。
写真も内トラでスタッフの私物が中心。ヘアメイクさんとか、一部のスタッフは自主映画で知り合って、僕が引っ張ってきた人だから「協力して」って頼んだ。
その内の一人、学生バイトだった若手スタッフの顔写真をぐしゃぐしゃぐしゃ千切って「君、(主人公の)小林(俊介)君の若い時ね。顔は見せないから」とかって。その時の学生だった彼は田口君と言って、今もプロデューサーやってる人なんですけどね……嬉しいですよ、あんな酷い現場出身なのに、この仕事を続けてくれていて。
(第三回に続く。次回、山のようなトラブルと対立と混乱を乗り越えて、伝説の傑作はいかにして完成したのか。その真実が明らかに)
(取材・文 福谷修)
【清水崇(しみずたかし)プロフィール】
1972年生まれ。1998年、Vシネマ『呪怨』を発表し注目される。2002年に劇場版『呪怨』を監督し大ヒット。2004年には自らハリウッドでリメイク版『THE JUON/呪怨』を手掛け、日本人監督として初めて全米興行収入ランキング1位を獲得した。その後も『輪廻』『戦慄迷宮3D THE SHOCK LABYRINTH』などのホラーを量産し、『犬鳴村』をはじめ村シリーズもヒット。近作は『ミンナのウタ』『あのコはだぁれ?』。他に『みなに幸あれ』『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』など、プロデュース作品も多い。
【執筆者・福谷修(ふくたにおさむ)】
WEB映画マガジン「cowai」編集長、ライター、映画監督。総監督を務めたホラー・アニメ映画『ナイトメア・バグズ』(花澤香菜CV)がアヌシー国際アニメーション映画祭2025に続いて、第58回シッチェス・カタロニア国際ファンタスティック映画祭に選出されて大忙し。
【読者プレゼント】
『呪怨〈4K:Vシネマ版〉』公開記念!
特別企画「清水崇 原点の創作術」連載記念
清水監督による“呪!!25周年!”サイン色紙を抽選で1名様にプレゼント

<応募方法>
<抽選結果>
皆様のご応募お待ちしています!
【応募の注意点】
解説
伝説のVシネマ版『呪怨』『呪怨2』を4K&5.1chサラウンド化!

制作から25年を経ての初となる正式な劇場公開に際し、映像、音声ともに、“呪いの創始者”である監督・脚本の清水崇による完全監修が実現。オリジナルマスターに存在する恐怖の因子を損なうことなく、スクリーンで味わう新たな恐怖体験を生み出し、作品のブースト化を実現させている。
映像ではVHSレンタルが主流の時代に制作されたマスターを、最新の技術「RS+」を使用することで、高解像・高精細映像化した4Kマスターに変換し、ブラウン管のモニターでの鑑賞が前提のオリジナルの素材を、スクリーン鑑賞に適したアップグレード化。音声ではオリジナルのステレオ音源を、サラウン
ドによる演出効果を加えた5.1chへと進化させ、繊細かつ迫力ある恐怖演出を体感させるよう更新している。

この夏も続々と日本製の新作ホラー映画が公開される中、Jホラーの原点ともいえるVシネマ版の「呪怨」、「呪怨2」がついに劇場公開となる。リリース当初こそ大きなセールスを記録することもなくレンタルビデオ店の棚にVHSホラー作品としてひっそり置かれた2作品は、SNSもない時代、口コミによってその“恐怖”体験が伝染し、その後に続く「劇場版」、「ハリウッドリメイク」、「ゲーム化」、「ノベライ
ズ」、「コミック化」・・・など伝説的なムーブメントの起点となり、原点となった。
本作は、Vシネマゆえに許された自由度の高さにより、その後の作品群とは異なる禍々しさで根源的な恐怖を見る者の記憶に植え付け、今も伝説の作品として語り継がれている。
かつてこの恐怖に触れた人も、
いまだ【呪怨】を未体験な人も、
生涯消すことのできない呪いの恐怖を記憶に
刻みつけることになる。
清水崇監督コメント

劇場公開こそされなかったけれど、人生初の長編だったVシネマ作品が、四半世紀を経て、顧みられるとは思ってもいませんでした。当時の僕は、与えられた企画にチャンスを感じつつ、ただただ夢中で、70分越えの2本撮りに9日間の撮影期間で臨みました。提示されたお題は「怖ければ!」だけ…幼少期から怖がりだった自分が膨らませていた怖い妄想の限りを吐き出しました。右も左もわからぬ若造に機会をくださり、支えて下さった方々に感謝です。若さゆえの勢いや歪さが今の皆さんにどう映るのか?今こうして劇場で陽の目を見るのは、嬉しい反面……正直、気恥ずかしいばかりです。
STORY&場面写真
『呪怨〈4K:Vシネマ版〉』

不登校の生徒・佐伯俊雄の家庭訪問に訪れた担任の小林。俊雄の母、伽椰子は小林の大学時代の同級生であった。訪問した佐伯家には俊雄の姿しかなかったが、そこで目にした伽椰子の日記には、異常ともいえる小林への想いが綴られていた。その家の異様な空気の中、俊雄の両親を待つ小林の携帯に着信が入る…。
時は移り――かつて佐伯親子が住んでいた家には、その後村上家が暮らしていた。長女の柑菜は従妹の由紀に家庭教師をしてもらっていたが、用事を思い出した中学へ向かう。一人残された由紀は、その家でただならぬ気配を感じる…。




『呪怨2〈4K:Vシネマ版〉』

不動産業者の鈴木達也は、霊感のある妹・響子に買い手のつかない事故物件となった家を見てもらうが、そこは響子の想像を超えた気配に満ちた場所だった。だが何事もなかったかのように新たに北田夫妻が入居する。響子はその家にまつわる因縁めいた逸話を集めるが、同じころ達也の息子である甥の信之にも異変が起こっていた。離婚した達也が息子とともに越した団地のその部屋は、かつて小学校の教師、小林が妊娠中の妻と共に暮らしていた部屋だった…。




【作品概要】
『呪怨〈4K:Vシネマ版〉』 『呪怨2〈4K:Vシネマ版〉』
8月8日(金)より新宿バルト9ほかにて2作品同時劇場公開
*上映は4KのDCPを使用、上映環境によって2Kコンバートでの上映
*2本立てではなく、それぞれの上映となります。
スタッフ・キャスト
『呪怨〈4K:Vシネマ版〉』
監督・脚本:清水崇
出演:柳ユーレイ(現・柳優怜) 栗山千明 三輪ひとみ 三輪明日美 藤貴子 吉行由美 松山鷹志 洞口依子
(2000年/日本/70分/5.1ch/スタンダード/カラー/DCP/映倫:G)
『呪怨2〈4K:Vシネマ版〉』
監督・脚本:清水崇
出演:大家由祐子 芦川誠 藤井かほり 斎藤繭子 藤貴子 でんでん 諏訪太朗 ダンカン
(2000年/日本/76分/5.1ch/スタンダード/カラー/DCP/映倫:G)
配給:東映ビデオ コピーライト表記:©東映ビデオ
公式HP:https://www.toei-video.co.jp/juon4k/ 公式X:@juon4k
『呪怨〈4K:Vシネマ版〉』 『呪怨2〈4K:Vシネマ版〉』
8月8日(金)より新宿バルト9ほかにて2作品同時劇場公開
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