【試写レビュー】限られた予算を逆手に取ったアイデアを駆使し、メジャー作品では不可能な衝撃と感動を生み出す。良い意味でB級映画の醍醐味が凝縮された、究極の一本。『プラットフォーム』1/29(金)より公開中

レビュー 映画



“目覚めると、そこは見知らぬ場所だった……”というシチュエーションを耳にするだけで、「またこのパターンかよ」とうんざりする人もいるかもしれない。

いわゆるシチュエーション・スリラーとか、ソリッド・シチュエーション・スリラーと呼ばれるジャンルだが、『CUBE』『ソウ』の世界的ヒットにより、現在も大量に製作されている。
それだけ需要があるからなのだが、ワンシチュエーションといえば、極端に言えば、部屋一つと役者がいれば、限りなく超低予算で映画一本をでっち上げることができるのだ。

もっともそれらの大半が駄作なのだが、一部のクリエイターは自らの才能をアピールするため、あえてこの使い古されたシチュエーションを使い(資金が集まりやすい)、逆手に取ったアイデアを駆使して凄い作品を作ろうと全力を傾ける。
1月29日(金)に公開された『プラットフォーム』もそんな一作だ。



スペインの新鋭、ガルダー・ガステル=ウルティアの長編初監督作品。
トロント国際映画祭の中でもユニークな作品が集まる「ミッドナイトマッドネス部門」での観客賞受賞をはじめ、クセの強い作品揃いのシッチェス・カタロニア映画祭でも最優秀作品賞を含む 4 部門での受賞を成し遂げた。

ポスターを見ての通り、本作の舞台となるのは、永遠にも思えるほどの【縦】の閉鎖空間

そこでのルールは下記の3つ。

【ルール1】 1ヶ月ごとに階層が入れ変わる
【ルール2】 何でも 1 つだけ建物内に持ち込める
【ルール3】 食事が摂れるのはプラットフォームが自分の階層にある間だけ

なぜ主人公ゴレンは“そこ”にいたのか!?
果たして、生きて脱出できるのか!?

極限状態で生活を制限された者たちがとる行動を通して、様々な社会問題がスリリングに暴き出される。






『プラットフォーム』から学ぶ
<優れたB級映画の作り方>



©BASQUE FILMS, MR MIYAGI FILMS, PLATAFORMA LA PELICULA AIE



『プラットフォーム』は、低予算で作られたB級作品だが、凡百の類似作品とは一線を引く、見事なまでに才気あふれる傑作となっている。

なぜ、ありふれた設定ながら、B級映画の傑作となりえたのか。

そこには“成功するB級映画の法則”が過不足なく盛り込まれているのだ。
今回のレビューでは、それを紐解いてみよう。



【1】一つのセットを使いまわして予算を全集中


©BASQUE FILMS, MR MIYAGI FILMS, PLATAFORMA LA PELICULA AIE



まずは「限られた予算の使い分け」だ。

低予算で、ハリウッド映画などを見慣れている観客を驚かせるには、どうしたらいいのか?

それは、最もセールスポイントとなる要素に予算を集中させることだ。

『プラットフォーム』のポスターを見てもわかる通り、この作品のセールスポイントは<階層に分けられた巨大なタワー>のような建物だ。

この中の部屋を階層ごとに一つずつ作っていたら、予算はいくらあっても足りない。
そう、B級映画ファンならもうおわかりと思うが、『プラットフォーム』のそれぞれの階層の部屋は、すべて一つのセットを使いまわしている

これは低予算映画に限らず、ホテルやアパート、寝台列車が舞台の映画などでもセットの使いまわしはよくある話だ。
今回も一つの建物の中で、上下が全く同じ間取りであっても不思議ではないし、むしろ同じと考える方が自然だろう。

主人公は、一か月ごとに違う階層に移動させられて目覚めるが、まず壁に記された階層の番号を確認する(セットの番号を貼り替える)。階層や時間によって、窓から差し込む陽光のライティング、同じ階層にいる相手が持ち込む小道具によって、毎回、部屋の雰囲気、印象が変わっていく。同じ階層のいる人物も年齢・性別・人種も多彩で、ドラマがスピーディーに展開するため、いちいちセットを気にする暇もない。が、基本的には同じセットである。

もちろん、階層ごとのセットのディテールや、台座の仕掛けにも、セットの使いまわしを意識させないよう工夫が施されている。また、台座の降下や、穴から見える上下階層の部屋の様子などにはVFXを駆使し、演出のセンスで補完しながら、クオリティを維持しているため、安っぽさは感じられない。





【2】一点豪華主義でチープさをカバー

この作品のもう一つの特徴は、上の階層から順に食事が巨大な台座に乗って降りて運ばれてくる点だが、これが贅をつくした豪華フルコース料理なのがポイント。
毎回、台座を埋め尽くす豪華絢爛な料理が、上階層から順に食い散らかされ、階層が下がるほどにグロテスクな残飯や汚物と化して、それを食べなければ生きていけない地獄のシチュエーション。その絶望感が強調されることで、階層ごとの差別や苦悩が露骨に浮き彫りにされ、タワーの不条理なシステムに奇妙な説得力をもたらしているのだ。

©BASQUE FILMS, MR MIYAGI FILMS, PLATAFORMA LA PELICULA AIE



B級映画では、セットと共に小道具にも一点豪華主義のアイデアを盛り込むことが多く、料理に予算を回すケースもあるが、それをシチュエーション・スリラーで行っている点がユニークで新鮮だ。
ビジュアル的にもインパクトがあり、この作品のチープさをうまくカバーしている。





【3】映画の約束事を逆手に取ったアイデア

これはシチュエーション・スリラーに限らず、舞台が密室でキャストも少人数の映画に当てはまることだが、必ず一か所、大勢の人が行き来するモブシーンを加えることが約束事とされている。

自主映画やインディーズ作品では見過ごしがちだが、終始、少人数の登場人物だけが画面に出続けると、どうしても映画として貧相な印象となってしまう。そこで、モブシーンを加えることで、少人数の映画の弱さを軽減し、映画に厚みをもたらす効果があるのだ。

仮に主人公が閉じ込められていても、たとえば『ソウ』のように、回想シーンなどでモブシーンを加えることは可能だ。

では、『プラットフォーム』はどうだろうか。

なんと台座に乗せる前の豪華フルコース料理を調理し準備しているシーンを加えることで、モブシーンとして対応しているのだ。これはアイデア賞ものだろう。

©BASQUE FILMS, MR MIYAGI FILMS, PLATAFORMA LA PELICULA AIE



この準備シーンは一見唐突にも見えるが、「あの料理はどうやって作られているのか」という観客の素朴な疑問にも応えつつ、階層の部屋の閉塞感あふれる殺伐とした雰囲気から一転して、どこかユーモラスな空気をも漂わせ、作品の世界観に広がりをもたらし、いい意味でのアクセントやリズムを生み出すことに成功している。
そして「一つの階層ごとに二人ずつしかいない」という貧弱な設定を違和感なく納得させて、うまくカバーする効果となっているのだ。

映画の約束事(この場合はモブシーンを入れる)を逆手に取ったアイデアというのはクリエイターの腕の見せどころでもあり、この点でも『プラットフォーム』は秀逸と言えるだろう。





【4】醜悪な階層社会をえぐり出す
欲望と暴力のオリジナリティ


©BASQUE FILMS, MR MIYAGI FILMS, PLATAFORMA LA PELICULA AIE



『プラットフォーム』では、上から下への台座の降下と、一か月ごとに入れ替わる主人公の階層によって、タワーの独自の構造とシステムが少しずつ明らかになっていく。
これは、横の移動が多かった『CUBE』など従来のシチュエーション・スリラーに対して、上下や縦の移動にこだわることで、作り手の差別化へのこだわりもあるのだろう。

そして階層が上下し、階層にいる相手も毎回変わることで、様々な事件とドラマが起きる。
台座の料理も、階層によって受け止め方が変わり、料理をめぐって、食欲はもちろん、性欲、物欲、支配欲など様々な欲望がぶつかり合い、時に暴力や殺人にエスカレートし、あるいは友情や愛情が芽生え、裏切られて絶望するなど、まさに人生の縮図のような、究極にして醜悪な階層社会をえぐり出す。さらに中盤では資本主義社会そのものを暴力的に風刺するような、ヘビーで哲学的な展開を見せるなど、これまでのシチュエーション・スリラーとは一味違った、深みのあるオリジナリティで、観客に新鮮な衝撃を与えている。





【結論】観客の予想を超える衝撃と感動
究極のB級映画と言える一本


©BASQUE FILMS, MR MIYAGI FILMS, PLATAFORMA LA PELICULA AIE



本作は、この階層とルールをめぐるシチュエーションから考えられるアイディアをすべて詰め込んで、脚本は練りに練られている。演出の切れ、テンポも良く、最初から最後まで全く飽きさせない。
階層が変わるたびに、新たな相手とのドラマが繰り返されるうち、徐々にタワーの謎めいたシステムの全貌が浮き彫りになる構成はスリリングだ。

最終的には、「主人公はいかにして脱出するのか」という観客の期待に応えつつも、タワーの深奥と真実に迫るクライマックスは、多くの観客の想像を超えるサプライズとカタルシスが用意されていて素晴らしい(実は前半に書いた「同じ間取り」という設定自体がクライマックスへの仕掛けの伏線にもなるのだから、大したものだ)。

限られた予算を逆手に取ったアイデアを駆使して、A級メジャー作品では絶対に不可能な衝撃と感動を生み出す。良い意味でB級映画の醍醐味が凝縮された、究極の一本と言えるだろう。
ぜひとも劇場で見てほしい作品だ。

      (福谷修)





その“穴”は世界を変える

【ストーリー】

ある日、ゴレンは目が覚めると「48」階層にいた。部屋の真ん中に穴があいた階層が遥か下の方にまで伸びる塔のような建物の中、上の階層から順に食事が”プラットフォーム”と呼ばれる巨大な台座に乗って運ばれてくる。上からの残飯だが、ここでの食事はそこから摂るしかないのだ。同じ階層にいた、この建物のベテランの老人・トリマカシからここでのルールを聞かされる…1 ヶ月後、ゴレンが目を覚ますと、そこは「171」階層で、ベッドに縛り付けられて身動きが取れなくなっていた!果たして、彼は生きてここから出られるのか!?





『プラットフォーム』

監督:ガルダー・ガステル=ウルティア
出演:イバン・マサゲ『パンズ・ラビリンス』『ミリオネア・ドッグ』「わが家へようこそ」、アントニア・サン・フアン『オール・アバウト・マイ・マザー』

2019 年/スペイン/スペイン語/カラー/スコープサイズ/5.1ch/94 分/原題:El Hoyo/英題:THE PLATFORM/字幕翻訳:大嶋えいじ
R15+/配給:クロックワークス

公式サイト: http://klockworx-v.com/platform/
予告篇: https://youtu.be/pLO6udXU648
©BASQUE FILMS, MR MIYAGI FILMS, PLATAFORMA LA PELICULA AIE

2021年1月29日 新宿バルト9ほか 全国ロードショー



【参考作品】

CUBEキューブ Blu-ray



キューブ (Cube) (Amazon prime video)



ソウ (字幕版) (Amazon prime video)






(関連記事)

Tagged