ポスターと中身にギャップがありすぎて話題騒然!ファミリー向けの感動作と思いきや、サイコなDV夫から逃げるシングルマザーの苦悩をシビアにヘビィに描いた鬱々展開が怖い『サンドラの小さな家』が絶賛公開中!

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『マンマ・ミーア!』『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』のフィリダ・ロイド監督の最新作『サンドラの小さな家』が、4月2日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国公開中だ。



米映画批評サイト「ロッテントマト」では満足度93%(2021/1/24時点)を記録し、Variety誌が選ぶ2020年ベスト映画第4位に選出された話題作。

日本でも、☆五つや四つの高評価が目立つものの、Filmarksは3.8(2021/4/9時点)と圧倒的な絶賛とはいっていない。低評価のレビューを覗いてみると、その多くが作品自体を褒めつつも、「期待した作品と違った」「展開が重くて鬱すぎる」と、タイトルやポスターとのギャップを挙げている。

確かにポスターだけ見れば、ファミリー向けのライトな感動作のイメージだ。

©Element Pictures, Herself Film Productions, Fís Eireann/Screen Ireland, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute 2020



プレスシートにも【本作は、アイルランドのダブリンを舞台に、夫から逃げてきた母娘が、隣人たちに助けられながら自らの手で小さな家を建てようとする物語。この困難な時代を照らす、奮闘と希望の感動作だ。】と書かれている。

実際に見ると、ストーリーの要約としては、確かにその通りだ。


しかし映画で強く印象に残るのは、夫のDV(家庭内暴力)だったり、シングルマザーの貧困や住宅問題など、現代社会にはびこる重い問題の数々。厳しい現実に抗うヒロインの苦悩を、時にドキュメント・スタイルでシビアに浮き彫りにしていく。個人的には、重すぎる位に鬱々な展開が見ごたえがあった。

特にDV夫の描写などはリアルに生々しく描かれており、並みのホラーやサイコスリラーよりもぞっとさせられる。

©Element Pictures, Herself Film Productions, Fís Eireann/Screen Ireland, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute 2020



レビューでも、「家」の話題よりも、やたらと「DV」の単語が目立ち、いかに観客がDV描写やサイコパスな夫に衝撃を受けているかがよくわかる。

英語の原題は「herself」。適切なタイトルだが、地味と言えば地味。
『サンドラの小さな家』もやむなしか。

洋画の日本独自タイトルは今も昔も論議を呼ぶが、最近では珍しいぐらいにギャップが際立った作品と言える。













無名のアラサー脚本家兼舞台女優がヒロインに抜擢された理由



©Element Pictures, Herself Film Productions, Fís Eireann/Screen Ireland, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute 2020



『女王陛下のお気に入り』を手掛けた製作会社のエレメント・ピクチャーズ、そして『マンマ・ミーア!』フィリダ・ロイド監督という一流のスタッフが惚れ込んだのは、無名に近かったアイルランド出身の女優クレア・ダンだ。

©Element Pictures, Herself Film Productions, Fís Eireann/Screen Ireland, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute 2020



ダンは、「ホームレス状態になった」という親友からの電話に衝撃を受け、本作の脚本を執筆。その初脚本を読んだロイド監督は「天性の脚本家」と絶賛し、ダン自身が主演することを条件にこの映画の監督を買って出た。

単なるファミリー向けの感動作なら、もっと知名度のあるスター女優を主役に起用するだろう。あえて、脚本を自ら書いた、無名のアラサー女優をヒロインに抜擢する辺り、作り手たちの意図は明白だ。

貧困層を題材にした一人芝居が好評を博すなど、舞台女優で地味に活躍していたダン以上に役柄にリアルにハマる女優がイメージできなかったのかもしれない。

©Element Pictures, Herself Film Productions, Fís Eireann/Screen Ireland, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute 2020



役にハマれば、俳優は才能をいかんなく発揮し、脚本の魅力を最大限引き立てられる。

事実、この作品で絶賛されたダンは、脚本家として注目されるだけでなく、女優としても、リドリー・スコット監督、マット・デイモン、アダム・ドライバーら共演の映画『The Last Duel』への参加が発表されるなど、メジャーな新作が目白押しで、一躍スターダムにのし上がっている。

さすが『マンマ・ミーア!』の監督というより、痴呆老婆の視点で英国史上最強の女性首相の実像をスリリングに描いた『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』のフィリダ・ロイド監督らしい仕掛けの巧さだ。

©Element Pictures, Herself Film Productions, Fís Eireann/Screen Ireland, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute 2020



また、共演で、デイムの称号(大英帝国勲章)を持つベテラン女優(『つぐない』、「ザ・クラウン」)というより、ジャンル映画ファン的にはクリストファー・リーの姪と言ったほうが早いハリエット・ウォルターや、イギリスの演劇界で最も権威あるローレンス・オリヴィエ賞を2度受賞し、「ゲーム・オブ・スローンズ」の狡猾な諜報機関の頭、ヴァリス役が記憶に新しいコンリース・ヒルらが、長編初主演のダンの脇を固め、作品に厚みを持たせている。
さらに母サンドラを支える娘役の愛らしい子役たちの名演も見逃せない。

©Element Pictures, Herself Film Productions, Fís Eireann/Screen Ireland, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute 2020



本作は、2020年のサンダンス映画祭で初お披露目されるや、「力を与えてくれる、タイムリーな物語」(Variety)、「クレア・ダンという驚くべき才能の出現」(IndieWire)、「最高傑作」(Little White Lies)とメディアや批評家が絶賛した。
また、2021年2月5日に発表された英国アカデミー賞のロングリストでは、イギリス映画の作品賞部門【英国作品賞】候補の20作品にも選ばれている。

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脚本・主演 クレア・ダン(Clare Dunne)

©Element Pictures, Herself Film Productions, Fís Eireann/Screen Ireland, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute 2020



1988年、アイルランド・ダブリン生まれ。主に舞台俳優として活躍。フィリダ・ロイド監督が2012年~2017年にロンドンの劇場ドンマー・ウエアハウスで上演したシェイクスピア劇を女性のみで演じるという実験的な三部作「ジュリアス・シーザー」(2012)、「ヘンリー4世」(2014年)、「テンペスト」(2016)に出演し好評を博す。
2018年に脚本と出演を務めた、アイルランドでのゼロ時間契約や人々の生活苦の問題を扱った社会派の一人芝居「Sure Look It Fuck It」が完売し話題に。
そしてロイド監督に持ち込んだ本作『サンドラの小さな家』の脚本がダン自身の主演で映画化。2020年のサンダンス映画祭で絶賛され、一躍注目を浴びVariety誌が選ぶ2020年ベスト映画第4位に選出、同誌の「2020年に注目すべき脚本家トップ10」、VOGUE誌の「2021年のライジングスター15」にも選ばれた。









【STORY】

©Element Pictures, Herself Film Productions, Fís Eireann/Screen Ireland, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute 2020



シングルマザーのサンドラ(クレア・ダン)は、2人の幼い子どもたちと共に、虐待をする夫のもとから逃げ出すが、公営住宅には長い順番待ち、ホテルでの仮住まいの生活から抜け出せない。ある日、娘との会話から小さな家を自分で建てるというアイデアを思いつく。サンドラはインターネットでセルフビルドの設計図を見つけ、清掃人として働いている家のペギー(ハリエット・ウォルター)、建設業者のエイド(コンリース・ヒル)など、思いがけない人々の協力を得て、家の建設に取り掛かる。しかし、束縛の強い元夫の妨害にあい…。サンドラは自分の人生を再建することができるのだろうか?

©Element Pictures, Herself Film Productions, Fís Eireann/Screen Ireland, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute 2020









監督:フィリダ・ロイド(『マンマ・ミーア!』、『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』)
共同脚本:クレア・ダン、マルコム・キャンベル(『リチャードの秘密』)
出演:クレア・ダン、ハリエット・ウォルター(『つぐない』、「ザ・クラウン」)、コンリース・ヒル(「ゲーム・オブ・スローンズ」)
2020年/アイルランド・イギリス/英語/97min/スコープ/カラー/5.1ch/原題:herself/日本語字幕:髙内朝子
公式サイト:https://longride.jp/herself/
提供:ニューセレクト、アスミック・エース、ロングライド 配給:ロングライド
©Element Pictures, Herself Film Productions, Fís Eireann/Screen Ireland, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute 2020



新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか公開中



【関連作品】


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