1960年代末、ヨーロッパ映画界で一瞬の光彩を放って消え去った一人のアメリカ人女優がいた。今や知る者もわずかとなり、映画史から忘れ去られようとしているその女優の名は、ミムジー・ファーマー。
実はホラー映画ファンにもなじみ深い女優(次の項目で紹介)なのだが、そんな彼女が、半世紀前に連続主演した2本の代表作、時代を超えた青春映画の傑作『MORE/モア』(1969)、そしてあまりの異様さが観る者の心を揺さぶる異形のミステリー『渚の果てにこの愛を』(1970)の日本公開50周年を記念した同時再公開が決定。
今秋 11 月 5 日(金)より新宿シネマカリテ他にて全国順次公開される。
この度、インモラル、ビザール、そしてイノセントなミムジーの危険な魅力を全面に打ち出した【日本オリジナル予告篇】が完成した(※すみません、予告編は年齢制限があり、リンクのアドレスのみとなります)。
<ホラー映画におけるミムジー・ファーマーの魅力>
ホラー・ファンにとって、ミムジー・ファーマーといえば、ダリオ・アルジェントの『4匹の蠅』(71)の人妻役、カルトなイタリアン・ホラーでジャーロの『炎のいけにえ』(74)のヒロイン、『ルチオ・フルチの恐怖!黒猫』(80)、『食人族』のルッジェオ・デオダードの『ブラディ・キャンプ/皆殺しの森』(86)で二番手の重要な役柄を演じており、「ああ、あの人か」と思い出す人もいるだろう。
特に『4匹の蠅』では、上記の主演二作で話題を振りまいた直後に出演、クライマックスのスローモーションでの車の事故シーンは語り草となった。
また『炎のいけにえ』も、死体が笑顔で迫ってくる幻覚を見るヒロインを熱演。本編を見ていなくとも、ポスターやスチールで恐怖におののくショートヘアの女性に見覚えがあるかもしれない。
今回上映される主演二作の後に、ホラーなどのジャンル映画に相次いで出演する辺りからも、当時の異色の人気ぶりがうかがえるだろう。
……それにしても、アルジェント、フルチ、デオダードという凶悪な顔ぶれのホラーの撮影現場を渡り歩いたヒロインなのに、“あの人は今”状態なのは、なんとも寂しい限りだ。
本来ならば、カトリオーナ・マッコールやジェイミー・リー・カーティスと並び称されてもおかしくないのに。これを機に再評価の機運は高まらないだろうか。
それはさておき、ホラーファンにとっても、特異で鮮烈な印象が残る美人女優の、衝撃的な代表二作は必見と言えるだろう。
静かな衝撃と狂気、破滅……ミムジー・ファーマーの危険な魅力に彩られた
『MORE/モア』『渚の果てにこの愛を』日本オリジナル予告篇
この度、完成した予告篇は2作品が合体した作りとなっており、【カウンター・カルチャーが世界を席巻した1960年代末―麻薬中毒、フリーセックス、近親相姦…インモラルなテーマのヨーロッパ映画に連続主演 世界中にセンセーションを巻き起こしたアメリカ人女優】というミムジー・ファーマーの紹介に続き、『MORE/モア』のパートでは、【快楽に溺れ、破滅への道をたどる麻薬中毒者たちの狂おしく儚(はかな)い青春】というコピーとともに、大麻吸引、ヘロイン注射、フル・ヌード、同性愛性交、バッドトリップによる幻覚症状が、ピンク・フロイド作曲・演奏のサウンドトラックをバックに描かれている。
『渚の果てにこの愛を』のパートでは、『MORE/モア』同様、ミムジーのブロンドのショートカットと美しいヌードのイメージが強調され、【茫漠と広がる荒野で出会った男と女―歪んだ愛と狂気がふたりを破滅へと誘う】というコピーとともに「兄」と「妹」の禁断の愛が、『キル・ビル Vol.2』(2004)篇中で流用されたフランスのシンガーソングライター、クリストフ作曲によるサウンドトラックをバックに描かれている。
まばゆい笑顔と伸びやかな肢体、しかし、愛する男と自らをも否応なく破滅へと誘ってしまう女性像―今回の再公開は、忘れ去られた女優ミムジー・ファーマー唯一無二の危険な魅力と美しさを、すでに彼女を知る者だけでなく、初めて知る者の心にも刻み付けるに違いない。
作品解説
“海と太陽に愛された死の天使” 伝説の女優ミムジー・ファーマーの魅力
2大問題作『MORE/モア』(69)と『渚の果てにこの愛を』(70)
麻薬中毒者の末路を破滅的に描いたジャンキー映画の最高峰『MORE/モア』(69)、そして、過去数十年にわたり世界的に観ることが出来なかった幻の作品にして異形のミステリー、『渚の果てにこの愛を』(70)。
麻薬中毒、フリーセックス、近親相姦―当時の映画表現の限界を超え、インモラルな領域に踏み込んだ2大問題作が、遂にこの秋、再公開される。
この2作品に連続主演したのが、今や知る人ぞ知る伝説のアメリカ人女優、ミムジー・ファーマーだ。
1960年代初め、ハリウッドの清純派スターとして売り出したミムジーは、低予算作品に数本出演した後に渡欧。
後に『運命の逆転』(90)でアカデミー賞候補となるバーベット・シュローダーの監督デビュー作『MORE/モア』(69)に主演する。
地中海の楽園イビサ島を舞台に、アメリカのヒッピー女性が、ドイツ人の若者と麻薬に溺れ、破滅への道をたどる姿を描いたこの作品で、ミムジーはバイセクシュアルの麻薬中毒者を大胆なフル・ヌードを交えて演じ、その鮮烈なイメージの数々は、1969年カンヌ映画祭・国際批評家週間で一大センセーションを巻き起こした。
続く『渚の果てにこの愛を』(70)は、『MORE/モア』で一躍時の人となったミムジーの、金髪ショートカットのスタイルをそのまま流用した異形のミステリー。
茫漠たる荒野のドライブインを舞台に、ミムジーは、その地を訪れた旅の若者を盲目的に兄と慕う、歪んだ愛欲と狂気に憑かれた女を熱演。ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞・特別賞に輝いた。
ミムジーが両作品で演じた“海と太陽に愛された死の天使”ともいうべき役柄は、いわゆる“ファム・ファタール”の妖艶さ、邪悪さとは似て非なるものだ。まばゆい笑顔と伸びやかな肢体、常識や道徳に縛られない自由な精神が堕落や退廃と表裏を成す女性像は、その可憐でセンシティブな美しさとともに、初めて彼女を知る者の心もざわめかせるに違いない。
【作品情報】
●『MORE/モア』 More
出演:ミムジー・ファーマー クラウス・グリュンバーグ ハインツ・エンゲルマン ミシェル・シャンデルリ
製作・監督・脚本・原案・台詞:バーベット・シュローダー 脚本:ポール・ジェゴフ 撮影:ネストール・アルメンドロス 音楽:ピンク・フロイド
【1969 年度作品(日本初公開 1971 年 2 月)/西ドイツ・フランス・ルクセンブルグ合作/カラー/ヨーロピアン・ヴィスタサイズ 1:1.66/モノラル/
DCP/上映時間:116 分】 © 1969 FILMS DU LOSANGE
●『渚の果てにこの愛を』 La Route de Salina
出演:ミムジー・ファーマー ロバート・ウォーカー リタ・ヘイワース エド・べグリー マルク・ポレル
監督・脚本:ジョルジュ・ロートネル 脚色・台詞:パスカル・ジャルダン ジャック・ミラー シャルル・ドラ 原作:モーリス・キュリー 音楽:クリストフ、クリニ
ック 【1970 年度作品(日本初公開 1971 年 6 月)/フランス・イタリア合作/カラー/スコープサイズ 1:2.35/モノラル/DCP/上映時間:95 分】
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■キングレコード提供 ■コピアポア・フィルム配給
11 月 5 日(金)より新宿シネマカリテほか全国順次公開
【ミムジー・ファーマー出演ホラー作品】
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