ヒューマントラストシネマ渋谷で開催中の「未体験ゾーンの映画たち 2022」にて限定上映され、SNSなどで大きな話題を集めた『スターフィッシュ』が3月12日(土)よりシアター・イメージフォーラム(東京)にて拡大公開される。
今回は本作のレビューを紹介する。
【今週のオススメ/レビュー】
『ゾンビ』と並ぶ、ジャンル映画ヲタの理想郷。
死ぬまでにあと一回は見たい珠玉の傑作。
昨日(3/10)は『ゾンビ』が日本で初公開されたことを記念して、“ゾンビの日”と言われているそうだ。
筆者も子供のころ、『ゾンビ』を劇場で見たが、もともとは同時上映だった『ブルース・リー/電光石火』の方が目当てだった(この時は『電光石火』がブルース・リーの新作と勘違いしていた)。
初めて見た『ゾンビ』は、冒頭のテレビ局の混乱ぶりなどが楽しそうで面白かったが、ホラーというよりは下世話なアクション映画というのが第一印象で、残酷描写は残酷描写というほど残酷ではなかったし、残酷描写なら翌年に公開された『サンゲリア』の方がえげつなかった。
ただ、後半のショッピングモールに籠城してからの、静寂に包まれた終末世界の独特の空気感だけは妙に印象に残っていて、「大人になったら、ああいう所に暮らしてみたいな」と世界中のゾンビバカの皆さんと似たような感想は持っていた。
さて、『ゾンビの日』の翌日が3/11である(ゾンビの日と同列に扱うのは不謹慎だろうけど思い出すことがある)。
11年前、地震が起きた時、自分は東京の仕事場にいて、それから少しして、友人の報道関係者から『東京が放射能に汚染されて住めなくなるかもしれない』とメールが届いた。
まだテレビなどでは正式に報道される前で、“早く逃げろ”と警告されたわけではないが、実際、外国の偉い人の出国ラッシュが始まっていた時期で、気の早い業界人の中にも、沖縄なんかに逃げ出した人がいたりした。
自分はというと、「そっか、東京も終わりなのか…」とぼんやり思って、妙に冷静だったことを覚えている。
今更あわてて逃げてもどうにもならんだろうと、とりあえずビールでも飲んで、窓の外の、平日の昼間の空を眺めていた。
明日から拡大公開される『スターフィッシュ』も(ちょっとニュアンスは違うけれど)、そんな《突然始まった終末をどう過ごすか》を描いた作品だ。
人類滅亡の終末世界…ながらも物語は淡々と進行する。巨大モンスターも出てくるが、『クワイエット プレイス』みたいにアグレッシブにはならず、むしろ諸星大二郎の『ぼくとフリオと校庭で』の夕暮れの街にたたずむ怪物(エヴァの元ネタの一つといわれる)や、それこそショッピングモールの屋上から見下ろす駐車場でうごめくゾンビのごとく、新しい日常の一部のように切り取られている(まあ、監督的には『ミスト』なんだろうけど)。
“終わってしまった世界”で一人静かに過ごすヒロイン。
死の予兆なのか時折インサートされるグロテスクで夢幻的な描写や、手塚プロが参加したアニメーションなどの仕掛けを除けば、劇的な展開はあまり起きない。なのに日常の映像は細部まで作りこまれて美しく切なく、時に恐ろしい。どのカットも全く飽きさせず印象深く、そのあまりの居心地の良さに、「自分もこんな世界で最期を迎えられたら…」と思わせる。ある意味で『ゾンビ』の後半と同じ。たぶん自分のようなジャンル映画ヲタクにとっての理想郷なのだろう。
現実の東京は、福島の原発職員&作業員の皆様や自衛隊の皆様らの決死の頑張りのおかげで、汚染は食い止められた。あれから10年以上が過ぎて、今も東京で暮らせているけど、ウィルスとか核戦争の危機とか、いつ終末を迎えてもおかしくない状況が続いている。
少し前に『スターフィッシュ』を鑑賞して、ふとあの時の空の色を思い出した。
死ぬまでにあと一回は見ておきたい。
INTRODUCTION
このミックステープは世界を救う
2018年に製作され、同年アメリカで公開されたものの、キャストの知名度や「ある朝目覚めたら世界を救うことになった女性の物語」という突飛な内容が影響してか、日本未公開になる可能性が高かった本作。
しかしその質の高さが我が国でも徐々に浸透、今年1月7日からヒューマントラストシネマ渋谷で開催中の「未体験ゾーンの映画たち2022」にて1月28日より限定上映されると、噂を聞きつけた映画ファンが殺到。SNSなどで賛否両論を巻き起こして大きな話題となり、この度晴れてシアター・イメージフォーラムにて正式に劇場公開が決定した。
「このミックステープが世界を救う」。そんな親友の遺したメッセージを胸に、喪失感を抱えながら立ち上がる女性・オーブリーに、マーベルのドラマ「ランナウェイズ」や映画『ハロウィン』(18)で注目され、次期スターとして活躍が期待されるヴァージニア・ガードナー。全編にわたってほぼひとりのみの出演という大役を見事にこなす。
監督はミュージシャンとしても活動する新鋭、A.T.ホワイト。幻想的な映像美とグロテスクな造形、さらには、アニメーションまで大胆にミックスし、若い女性の複雑な心象風景を見事に映像化。
そしてもうひとつの主役と言えるのがテープに収録された音楽。
アイスランドのポストロックバンド、シガーロスをはじめ、スパークルホース、グランダディといった人気ミュージシャンの楽曲が、オーブリーの心の声を物語っていく。
この世にたったひとり残されたら? そして世界を救うのは自分だと託されたら?
自分自身と向き合うことで悲しみを乗り越えたオーブリーが迎えるラスト。
観る者すべてが真の感動と癒しに包まれることになる必見の注目作といえるだろう。
STORY
親友グレイスを失ったオーブリー。
悲しみに耐えきれずグレイスの家に忍び込む彼女だったが、翌朝目覚めると人々の姿が忽然と消え、見慣れた街は怪物が闊歩する異様な世界に変貌していた。
これは現実なのか幻なのか。わずかな手がかりはトランシーバーから漏れ聞こえる男の声。
そしてグレイスが遺した1本のカセットテープ。
街のいたるところに隠されたテープを集めて信号を解読すれば世界が救える。
親友が遺した謎のメッセージを信じて、オーブリーは決死の覚悟で扉を開けて外へ飛び出していく・・・・・・。
原題:STARFISH
キャスト:ヴァージニア・ガードナー、クリスティーナ・マスターソン、エリック・ビークロフト、ナタリー・ミッチェル、タンロー・イシダ
脚本・監督・作曲:A.T.ホワイト
プロデューサー:アイダ・ベルナル、アルド・ジョバン・ディアス、タンロ・イシダ
エグゼクティブ・プロデューサー:アンソニー・ホワイト、エドガー・ロメロ、A.T.ホワイト
共同プロデューサー:ネイサン・ハーツ アソシエイト・プロデューサー:アリソン・ホランド
撮影:アルベルト・バナレス 編集 アレックス・エルキンス、A.T.ホワイト
2018年/99分/イギリス・アメリカ/英語/カラー/スコープサイズ/5.1ch
©2018 Starfish Productions,LLC. All Rights Reserved.
配給: アムモ98
公式HP:starfish-movie.com
3 月 12 日(土)より、シアター・イメージフォーラムにてロードショー!
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