明日9/4(金)公開『ファナティック ハリウッドの狂愛者』レビュー&作品紹介。ストーカー映画に潜む“違和感”の正体とは?

映画


※この記事の後半の【レビュー】はネタバレをしていないつもりですが、勘の鋭い方ならわかってしまうかもしれませんので、心配な方は前半の【作品情報】のみお読みください。


【作品情報】

タイトル:

『ファナティック ハリウッドの狂愛者』



監督:フレッド・ダースト
脚本:フレッド・ダースト、デイブ・べーカーマン
出演:ジョン・トラボルタ、 デヴォン・サワ、 アナ・ゴーリャ、
ジェイコブ・グロドニック、 ジェームズ・パクストン
2019/アメリカ/英語/ 88分/ PG12
原題:THE FANATIC
提供:ギャガ、 イオンエンターテイメント
配給:イオンエンターテイメント
© BILL KENWRIGHT LTD, 2019

公式サイト:fanatic-movie.jp
公式twitter:@FanaticTravolta
9月4日(金) より全国公開


予告編





INTRODUCTION

『ミザリー』『ザ・ファン』に継ぐ
ストーカー・スリラーの怪作

© BILL KENWRIGHT LTD, 2019



キャシー・ベイツがアカデミー主演女優賞®を射止めた『ミザリー』、ロバート・デ・ニーロの怪演が話題となった『ザ・ファン』といった、著名人に執着する異常心理を描いたストーカー・スリラー映画の傑作たち。この系譜に新たな名を刻む本作の舞台は映画の都ハリウッド。狙われるのは人気俳優、そしてストーカーを演じるのはベテラン、ジョン・トラボルタだ。
 『サタデー・ナイト・フィーバー』や『パルプ・フィクション』『ヘアスプレー』などに出演するハリウッドスターのトラボルタが、自身のキャリアをかなぐり捨てるかのようなストーカー役を怪演。内面から滲み出る狂気や粘着性を見事に体現し、新境地を見せる。

© BILL KENWRIGHT LTD, 2019



共演には、『キャスパー』『ファイナル・デスティネーション』などでブレイクしたデヴォン・サワ、NETFLIXの人気青春ドラマシリーズ「デグラッシ: ネクスト・クラス」で注目を集めたアナ・ゴーリャが名を連ねる。

本作でメガホンを執るのは『奇跡のロングショット』などを手がけたフレッド・ダースト監督。ロックバンド、リンプ・ビズキットのフロントマンでもあるダースト監督が、ファンがストーカーへと変貌していく様を実体験を元にリアルに映し出し、狂気を纏う物語が誕生した。

© BILL KENWRIGHT LTD, 2019


STORY



ハリウッド大通りでパフォーマーをしながら日銭を稼ぐムースは大の映画オタク。
人気俳優ハンター・ダンバーの熱狂的なファンである彼は、いつかダンバーからサインをもらうことを夢見て、さえない毎日を送っていた。
だが、念願かなって参加したサイン会で思いがけず冷たくあしらわれてしまったことから、ムースの愛情は次第に歪んでいく。
ダンバーの豪邸を突き止め、何度となく接触を試みるも、気味悪がられて激しく拒絶されてしまうムース。そしてエスカレートしていく行動は、やがて凄惨な悲劇へと発展していく……。











【編集長のレビュー】


“ストーカー映画”に秘められた“違和感”の正体とは?

© BILL KENWRIGHT LTD, 2019



やられた。
正直、予告編のまま、トラボルタが気色悪いストーカーを怪演して、あこがれのスターへのファン行動を異常なまでにエスカレートさせる…ってシニカルな笑いに満ちたサスペンスを想像してしまうんだけど、そんな単純じゃなかった。
いや、たしかにそうした部分で十分楽しめる映画ではあるんだけど、トラボルタの演技が単に気持ち悪い、を超えた、尋常ならざる存在に思えたからだ。
たとえるなら「IT」のペニーワイズや、「エルム街の悪夢」のフレディ、『スクリーム』のマスク殺人鬼といった、ホラー映画のモンスターのような“得体の知れない、不気味な軽妙さ”。


© BILL KENWRIGHT LTD, 2019




ひょっとして、それは二度目のゴールデンラズベリー賞の最低主演男優賞を受賞したトラボルタの演技が大根すぎるせいなのか?といえば、私はそう思わない。
事実、本編の冒頭の店でのやりとりは、抑制された演技で引き込まれる。あの独特のか細い声質とあいまって、このままの調子でいけば、本格的なストーカー・サスペンス映画も可能だったろう。
おそらくは監督か本人のアイデアで、“あえて”こうしているのだろうと思った。
つまり世間が抱く『もしもジョン・トラボルタがキモいストーカーを演じたら』を見事にわかりやすく具現化しているのだ。何もここまで、と、やりすぎ痛すぎの、期待に応えた熱演で、最低主演男優賞に輝いてしまったのはちょっとかわいそうだ(いや、本望か)。
事実、主人公の尋常ならざるキャラをより引き立たせるため、彼を取り巻く登場人物たちは、皆、きらびやかなハリウッドの中でも、しっかり地に足の着いた生活をしている。
豪邸に住むスターだってシングルファーザーで地道に子育てして生活に追われるし(メイドに手を出して拒絶されたりする)、主人公の女友達のパパラッチだってスクープを狙って日々地味な張り込みに精進し、主人公に「社会のルールを守れ」と説教する(ん?)。
ただ一人、主人公だけが思うがまま行動し、のびのび世界を謳歌しているように思えるが(本人は不幸のどん底と思っているんだが)、勘違いも含めて、じりじりと孤高の内面が浮き彫りにされる。


© BILL KENWRIGHT LTD, 2019



この映画を見ていくと、主人公のキャラに対する違和感がじわじわと膨らんでいく。それが秘めたる怖さと狂気に変わっていくのだが、突然豹変するというより、気が付いたらそうなっていた、という辺りの展開が地味にコワイ。
同時進行で、このキャラに新たな違和感が生まれる。彼がホラー・ファンということだ。
主人公は、『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』を繰り返し鑑賞し(セリフやキャラの動作も覚えている)、『マニアック』のオリジナル原理主義者で、ジェイミー・リー・カーティスの大ファンで、あまつさえ『13日の金曜日』や『SAW』『ミザリー』の名シーンをネタにしたりとか、軽いのか、深いのか、節操があるのかないのか、よくわからない。
ああもう、世間から見ると、ホラーファンって、こんな困ったチャンのイメージなのね、と思わされるキャラだ。
おそらく「こんなキモい奴はホラー映画ばっかり見ているんだろう」という世間のイメージを、キャラに後付けしたんだろうな……と思っていたのだが、実はこれもまたこの映画の伏線であり、仕掛けだったりするから、侮れない。観客に違和感を覚えさせ、ツッコミを入れてもらうことで、巧みにミスリードしているのだ。
映画の急転直下の異常なクライマックスで、その伏線の回収に気づいた時、思わず「やられた」と心の中で叫んでしまった。



© BILL KENWRIGHT LTD, 2019



そう、途中までのちょっと緩いコミカルな雰囲気から、すさまじい緊迫と衝撃へとなだれ込むクライマックス。馬鹿なホラー・ファンゆえに、その違和感にまんまと騙された感じか。
監督は、ロックバンド、リンプ・ビズキットのフロントマンでもあるダーストで、ファンがストーカーへの変貌する実体験も作品に反映しているという。
つまり目線はあくまでスターの側で、その日常や、ストーキングされる側のリアリティにはさすがに説得力があったが、対照的にファン(ストーカー)側を生々しく描かなかった点において、本作はファンのストーカー化をアイデアの源泉としながらも、単なるサスペンスに落とし込むつもりはあまりなかったと思える。



© BILL KENWRIGHT LTD, 2019



そもそもサスペンスなら、スターかファンかのどちらかに共感できるようにメリハリをつけて描く必要があるけど、本作ではスターも高圧的で、息子を守るためとはいえ暴力も辞さないタイプ。主人公もやっぱり自己中心的で被害者面しながら、やりたい放題にエスカレートさせる。共に共感できないだろう。結局、どちらもエスカレートした挙句に、ああした壮絶なクライマックスに突き進むしかないのだ。
 スター側が最終的な決断に行かざるを得なくなるほど、トラボルタのストーカーぶりは、もはやストーカーの範疇を超えた、人の感情を極限まで逆なでし、心臓をえぐるほどに異様な嫌悪をもよおすのだ。
だから、スターの決断にも観客は納得できてカタルシスを得られるし、それがやりすぎとは思わない程にトラボルタの演技は正しかったと思いたい。
そしてクライマックスからラストのオチに至る展開も、なぜか不思議な感動を呼び起こす。単なる哀れなストーカーの末路ならこうはいかない。かといって、『ジョーカー』のように英雄譚に昇華されるわけでもない。このキャラにふさわしい絶妙なエンディングだった。
観終わった後、私はこの映画が「面白かった」し、あれほど違和感のあった主人公にも「あいつ、けっこういい奴だったんだな」と思えてしまう。
もしも世間での売りである「ストーカー映画」だったら、残念ながら私は乗れなかったかもしれない。違和感の正体。そう、これは立派なホラー映画だったのだ。
トラボルタが最低主演男優賞を受賞したのは、あくまで演じたキャラが最低なのであって、演技はホラー映画としては最高だったと思いたい。
個人的にはとても気にいった作品だ。多くの人に見てほしい。
でもなあ、こんなことを考えていると、「ほら、また馬鹿なホラー・ファンがカモになっているぞ」と監督やトラボルタから笑われそうだ。まあ、いいか。



© BILL KENWRIGHT LTD, 2019




福谷修(「cowai」編集長)


映画ライターや構成作家を経て、2003年、プロ監督デビューした、日本香港合作ホラー映画『最後の晩餐-The Last Supper』でスコットランド国際ホラー映画祭準グランプリ受賞。その後『こわい童謡 表の章/裏の章』『渋谷怪談 THEリアル都市伝説』『心霊病棟 ささやく死体』など数々のホラー映画を監督。また、NintendoDSのホラー・アドベンチャーゲーム『トワイライトシンドローム 禁じられた都市伝説』の監督・シナリオを担当。作家としても『渋谷怪談』(竹書房)でデビュー後、『子守り首』(幻冬舎)、『心霊写真部』(竹書房)、『霧塚タワー』『鳴く女』『怪異フィルム』(TOブックス)など。2018年、アニメーション作家、坂本サクが監督を務める劇場用ホラー・アニメ映画『アラーニェの虫籠』(花澤香菜主演)を製作・監修・プロデュース。アヌシー国際アニメーション映画祭などで著名な映画祭で正式上映される。新作はホラーアニメ映画『アムリタの饗宴』(製作・プロデュース・監修)で2021年公開予定。

Twitter  @o_fukutani

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