【今週のオススメ/レビュー】『ナイトメア・アリー』(3/25公開)幽霊もモンスターも出てこない、絢爛たるネオ・ノワールながらも、デル・トロらしさは全開の禍々しい“怪物映画”

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ギレルモ・デル・トロが豪華キャストと共に挑む
『シェイプ・オブ・ウォーター』を超える悪夢、圧巻の映像世界



異才監督ギレルモ・デル・トロが、作品賞・監督賞を含むアカデミー賞4部門を受賞した前作『シェイプ・オブ・ウォーター』に続き、再びサーチライト・ピクチャーズとタッグを組んだ最新作『ナイトメア・アリー』が2022年3月25日(金)に全国公開される。配給はウォルト・ディズニー・ジャパン。
今回は本作のレビューを紹介する。





常に世界に驚きと感動を届け続ける異才が、ブラッドリー・クーパー、ケイト・ブランシェットほかこの上ない豪華キャスト陣の圧巻の演技と共に贈る、自らの最高傑作を塗り替える衝撃の最新作。







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『ナイトメア・アリー』2022年3月25日(金)公開、映画前売券(一般券)(ムビチケEメール送付タイプ)










【今週のオススメ/レビュー】3/25(金)公開『ナイトメア・アリー』

幽霊もモンスターも出てこない、絢爛たるネオ・ノワールながらも、
デル・トロらしさが全開の禍々しい“怪物映画”


©2021 20th Century Studios. All rights reserved.




 前作『シェイプ・オブ・ウォーター』(2017)でアカデミー作品賞&監督賞を受賞して、もはや怖いものなしといった感のあるギレルモ・デル・トロ監督が、満を持して次回作として選んだ題材が「見世物小屋」だ。

 配給は天下のウォルト・ディズニー・ジャパン(アメリカはディズニー傘下のサーチライト・ピクチャーズ)。
 ディズニー(系列)製作・配給の異色作で思い出すのは、当時絶好調だったティム・バートンが、“服装倒錯者で史上最低映画の監督”をジョニー・デップ主演で撮ったモノクロ映画『エド・ウッド』(1994)か。

 バートンほどひねくれ者ではないデル・トロだけに、『ナイトメア・アリー』はカップルがデートムービーとして鑑賞しても問題がないレベルに楽しめるよう配慮がなされている(少なくとも「おしゃれなファンタジーのデートムービー」と勘違いして『パンス・ラビリンス』(2006)を見たカップルの悲劇と比べたら……)。

 しかし、そうはいっても「過去を秘めた男が逃亡の末に、見世物小屋一座に紛れ込み、そこで才能を発揮して出世し、富も女も名誉も手にする……」という本作のストーリーは、主演のブラッドリー・クーパーの存在感と相まって、ネオ・ノワール(1940~50年代に流行したフィルム・ノワールの復興を目指すタイトル)として見ごたえがある。一方で、作品の根底に描かれるのは、「見世物小屋」「怪物」「霊媒師」「心霊事件」などといった怪しげなジャンル・キーワードに彩られた、いかにもデル・トロらしい【悪夢の世界】だ。
 ディズニー配給であろうとも、そのあたりの“らしさ”に一切の手抜きはないだけに、(好みはあるとしても)マニアの皆さんにも十分オススメできるクオリティだ。




新境地への挑戦と、マニアックな仕掛け


©2021 20th Century Studios. All rights reserved.

 


 従来のデル・トロ作品との大きな違いは、本作には「幽霊」も「モンスター」も登場しないことだろうか。
 
 もちろん、それらの存在を全て否定するわけではなく、あくまでリアリティにこだわりつつ、獣人(ギーク)などの“近い存在”が登場するなど、現実と幻想の境界線がじわじわと曖昧になっていき、主人公を追い詰めていく。
 特にダークで夢幻的な映像美の中でスリリングに展開するクライマックスは、デル・トロの円熟味を増した演出の妙を堪能できる。

 霊媒師の交霊術による胡散臭い心霊写真や、往年の見世物小屋の裏側に興味がある人であればあるほど、作品をより深く楽しめる仕掛けが随所に施されており、スクリーンで鑑賞する際にはぜひとも目を見開いて細部までチェックしてほしい。

 もちろん一般の観客にとっても、豪華キャストの競演や、絢爛たる美術に支えられた、ノスタルジックで美しい丁寧な画作りは、『シェイプ・オブ・ウォーター』などと同様に、マニアックな知識がなくても満足できる様になっている。



全編で蠢く古典ホラー『フリークス』への愛と、オタク監督の願望


Rooney Mara and Bradley Cooper in the film NIGHTMARE ALLEY. Photo by Kerry Hayes. © 2021 20th Century Studios All Rights Reserved

 


 原作はウィリアム・リンゼイ・グレシャムの『ナイトメア・アリー 悪夢小路』
 
 過去に一度タイロン・パワー主演で『悪魔の往く町』(1947)として映画化されているが(原題は同じ『ナイトメア・アリー』)、マニア以外にはほとんど忘れ去られた小説だ。
 おそらくデル・トロは原作のストーリーラインを使いつつ、本質的にやりたかったのは、同じ見世物小屋を舞台としたホラー映画の古典『フリークス』(1932)へのオマージュなのだろう。

 『フリークス』(公開時の邦題は『怪物團』)といえば、本物の奇形・不具者が大挙出演するという、今では不可能な作りの作品ながら、キャストの熱演や、衝撃のラストに至る因果応報の物語など、今なおその魅力は色あせていない。

 『ナイトメア・アリー』での、特に前半の見世物小屋の、ゴシック・ホラーさながらの妖しい雰囲気や、こだわりぬいた重厚な美術セットは、『フリークス』の現代的リメイクを意識しているのは明白だろう。

 また、その世界に迷い込んだ主人公には、おそらくデル・トロは自分自身を重ねているはずだ。

 自信家で才能に恵まれながらも、他人を信用できず、弱さを隠すために口八丁手八丁で自分を大きく見せようとする、というのは映画監督にはよくあるタイプである(笑)。「見世物小屋で才能を発揮して、富も女も名誉も手に入れる」という本作のプロットは、「巨大ロボットを操縦して怪獣と戦い、地球の危機を救う」と同じぐらいオタク男子の願望を描いているのだ。

 ただ、題材に思い入れが強すぎるせいだろうか、前作『シェイプ・オブ・ウォーター』にあった大人のラブ・ストーリーやヒューマンドラマの抑制された雰囲気は弱まり、ひたすら主人公の欲望のおもむくまま破滅へと突き進むギリギリとした作りは、良くも悪くも人間の醜悪さが濃密に浮き彫りにされて圧倒される。

 何度も書くが、本作には従来のデル・トロ映画の定番だった、幽霊もモンスターも心霊現象もSFもダークなファンタジーも存在しない。しかし、それはあえて監督が必要としなかったとさえ思える。もはやこの映画そのものがグロテスクに暴走した“怪物”といえるのだから。

 妙に印象に残るラストシーンなど、主人公のキャラクター造形も含めて、従来のデル・トロ映画よりも深く踏み込み、新たなドラマの境地に挑んだ、禍々(まがまが)しい秀作として評価したい。












映画の制作と撮影の舞台裏に迫ったメイキング本も3月18日発売!


ギレルモ・デル・トロのナイトメア・アリー ある「怪物(おとこ)」の悲しき物語とその舞台裏(仮)

書影は原著











『ナイトメア・アリー』『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』までの歩みと
全作品を解き明かす決定的評伝『ギレルモ・デル・トロ モンスターと結ばれた男』



異彩を放ち続ける鬼才ギレルモ・デル・トロ。最新作『ナイトメア・アリー』『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』に至るまでの、人生と(未完の映画を含む)全ての作品を解き明かす決定的評伝ギレルモ・デル・トロ モンスターと結ばれた男』(フィルムアート社)が 3月11日(金)より発売中。




『ギレルモ・デル・トロ モンスターと結ばれた男』(フィルムアート社)











『ナイトメア・アリー』STORY




──ある日青年スタンがたどり着いたのは、人間か獣か正体不明な生き物を見せる怪しげなカーニバルの一座。

そこで読心術を身につけたスタンは、持ち前の野心からショービジネスの世界での成功を目指して大都会へと旅立つ。

やがて天性のカリスマ性を武器にトップのショーマンとなり、豪華なホテルのステージで上流階級の人々から拍手喝さいを浴びる日々を送る。

だが、心理学博士のリリスとの出会いが、スタンの運命を大きく変えていく。

さらなる野望のその先に待ち受けていた、想像もつかない闇とは──?










『ナイトメア・アリー』


■監督:ギレルモ・デル・トロ 『シェイプ・オブ・ウォーター』
■キャスト:ブラッドリー・クーパー、ケイト・ブランシェット、トニ・コレット、ウィレム・デフォー、リチャード・ジェンキンス、ルーニー・マーラ、ロン・パールマン、メアリー・スティーンバージェン、デヴィッド・ストラザーンほか
■全米公開:12月17日
■配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
■コピーライト:©2021 20th Century Studios. All rights reserved.
■公式サイト:https://searchlightpictures.jp
■公式Facebook:https://www.facebook.com/SearchlightJPN/ 
■公式Twitter:https://twitter.com/SearchlightJPN
■公式Instagram:https://www.instagram.com/SearchlightJPN/




2022年3月25日(金)全国公開








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『フリークス』予告編




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