【今週のオススメ/レビュー】この作品の成否が、Jホラーの未来を決める——「日本ホラー映画大賞」大賞受賞作映画化『みなに幸あれ』1/19(金)公開

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「地球上の幸せには、限りがある――」
狂気に満ちていく古川琴音が怖すぎる


2021年日本で唯一のホラージャンルに絞った一般公募フィルムコンペティション「日本ホラー映画大賞」(主催:KADOKAWA)の初大賞受賞作品である『みなに幸あれ』が、長編となり遂に2024年1月19日(金)に劇場公開される。
この度、編集長・福谷による、本作のオススメ・レビューを掲載する。




主演は、今最も注目を集める俳優の一人で、若手俳優の中でも確かな演技力で評価の高い古川琴音。古川自身初めてのホラー映画への出演となる。
メガホンをとるのは、「日本ホラー映画大賞」にて同名タイトルの短編映画として大賞を受賞した下津優太。商業映画監督デビューにして、早くも世界各国の映画祭で称賛を浴びており、今までに観たことのない斬新な恐怖の世界を創り上げている。
そして、総合プロデュースを手掛けるのは、日本ホラー映画界の重鎮である清水崇。



©2023「みなに幸あれ」製作委員会








「誰かの不幸の上に、誰かの幸せは成り立っている」

人類の宿痾と言ってもいい根源的なテーマが根底に流れ、とある村を舞台に、この世界の特異な成り立ちに疑問を持った古川演じる主人公が行動を起こすも、逆にどんどん追い込まれていく様を描き、「この世界にはある法則が存在する。それを知らないと死ぬことになる…。」という得体の知れない恐怖と対峙していく―。









【今週のオススメ/レビュー】
この作品の成否が、Jホラーの未来を決める――
新人監督がよくこれほどの濃密な長編ホラーを
撮れたものだと感心したら、清水崇監督は……。

「日本ホラー映画大賞」大賞受賞作映画化『みなに幸あれ』


©2023「みなに幸あれ」製作委員会



「日本ホラー映画大賞」が第一回で、短編映画『みなに幸あれ』と出会えた意味は大きい。

かつて映画美学校が一期生で『呪怨』の清水崇を輩出し、注目を集め、躍進を遂げたように、(学校とコンテストは同じでないことは百も承知で)日本ホラー映画大賞も一回目で下津優太という傑出した才能を発掘したことで、今後に向けて、幸先の良いスタートを切れたはずだ。

筆者は2021年12月、都内で開催された第一回授賞式を取材し、最終候補作すべてを鑑賞していたが、『みなに幸あれ』があらゆる面で他の作品を圧倒していた。

審査委員長の清水崇監督をはじめ審査員も満場一致で短編『みなに幸あれ』を大賞に選んだと記憶している。
受賞の際の、下津監督の新人らしからぬ自信に満ちた表情が、すべてを物語っているように思えた。

そして大賞受賞作は約束通り、長編映画化され、明日より劇場公開される。

正直、筆者としては一抹の不安があった。

短編映画『みなに幸あれ』は確かにホラーとして、とてもよくできていたが、それはあくまでインディーズの短編の完成度であり、長編の商業映画を作る才能はまた別物であるからだ。さらに、プロのスタッフ、キャストに囲まれた現場では、新人監督は思うように撮れないケースも珍しくない。

上映時間11分という短編『みなに幸あれ』はいわば『怪談新耳袋』のような一発ネタの世界であり、細部をあえて描かないことで、想像が刺激されて怖くなるという、いわゆる短距離走向けの企画だ。

タイトルにも反映された、「誰かの不幸の上に、誰かの幸せは成り立っている」「地球上の幸せには、限りがある――」という人類の根源的なテーマを軸に、土着的でおぞましい日本の因習を、Jホラー的なじっとりとした不穏な演出で丁寧に描いているが、短編映画として完璧な分、長編化には困難が伴うと感じられた。

例えば、細部の謎めいた部分を深堀りし、その背景を解き明かせば、ドラマの評価は上がったとしても、ホラーとして怖さは薄らいでしまうからだ。

では実際の映画はどうなったのか。

一足先に試写で見た印象は、長編映画『みなに幸あれ』は、オリジナルの短編映画を非常にうまくアレンジしていた。

短編で示された謎は、その多くが長編でも謎のまま、しかしストーリーは間延びすることなく、驚くべきことに、ホラーとしての見せ場は十倍近くに膨れ上がっていた。言うは易しで、これはとんでもないことだ。

Jホラー的な演出はもちろん、後半にはイタリアン・スプラッターやジャーロ、アメリカン・サイコスリラーの味わいさえ漂う、バラエティに富んだ恐ろしい見せ場が押し寄せる。これ、現場は死ぬほど大変だよ。
しかも面白いのは、後半で、作品のテーマ(何度も言うけど「地球上の幸せには、限りがある――」とか)を、ホラーの見せ場としてスリリングに掘り下げて昇華させている点だ。なるほど、謎や怖さを維持したまま、作品は長編映画としてのボリュームと深みを増すという離れ業を、この新人監督はやってのけているのだ。

そしてクライマックスでは、短編では描かれなかった、この因習に対する一つの結末を描いており、長編映画としての締めくくりも見事だった。

予算もスケジュールも極めて限られる中、短編しか経験のない、無名の新人監督がよくもまあこれだけの濃密な長編ホラー映画を撮りきれたものだと素直に感心した。
そのことを、下津監督インタビューに同席した清水崇監督に言ったら、「そりゃ、僕だって、予算800万円で『呪怨』を二本撮りしたんだから」と笑われた。(※註。デビュー作のオリジナルビデオ版『呪怨』『呪怨2』の二作)

まあ、第一回授賞式でも、「(受賞監督がプロデビューすれば)僕だけライバルが増える」と話していた清水監督だが、そんな皮肉とは裏腹に、本作では総合プロデューサーとして作品を全面的にバックアップしている。

清水監督自身は予算の都合もあり、(本人は行きたくても)ほとんど現場に顔を出せなかったそうだが、脚本を『ミンナのウタ』の角田ルミが担当し、さらに助監督として、毛利安孝、川松尚良ら、これまでの清水組のベテラン・スタッフ(本人たちもホラー監督を務めるほど)が参加している点は見逃せない。
清水監督の命で、清水組の中核が現場を支えているなら、新人監督の(おそらく無理難題も多いであろう)斬新なホラーのイメージにも柔軟かつ無駄なく対応できたことは容易に想像がつく。

ああ見えて実は心優しい(失礼)清水監督も、下津監督に若き自分を重ねていたのかもしれない。
同じJホラーでも、『呪怨』と『みなに幸あれ』はかなり毛色が異なるが、共に「新しい日本のホラーを作りたい」という意欲がみなぎることに関しては、同じ匂いを感じるはずだ。

『みなに幸あれ』には様々なホラーの可能性が凝縮され、何より怖くて新鮮な面白さに満ちている。
ここまで来たのなら、ちゃんとヒットして、後から続く者たちに道を切り開いてほしいところ。
この作品の成否が、Jホラーの未来を決める――そう断言できるだけの資格と価値を十分に備えた、決して見逃せない作品といえるだろう。

                             

                                  (「cowai」編集長・福谷修)




©2023「みなに幸あれ」製作委員会









<海外映画祭コメント>

©2023「みなに幸あれ」製作委員会




強力なストーリー、独創的なアイデア、ダークユーモア、田舎暮らしという要素が、暗いホラー映画のレシピを完璧に完成させている。
(プチョン国際ファンタスティック映画祭 最優秀アジア映画賞 受賞)


コントロールされた演出力をもつ下津優太は、Jホラーの伝統を受け継ぐにふさわしい監督である
(Monsters Taranto Horror Film Festival最優秀監督賞 受賞)



©2023「みなに幸あれ」製作委員会








【ストーリー】

©2023「みなに幸あれ」製作委員会



看護学生の“孫”は、ひょんなことから田舎に住む祖父母に会いに行く。久しぶりの再会、家族水入らずで幸せな時間を過ごす。しかし、どこか違和感を覚える孫。祖父母の家には「何か」がいる。そしてある時から、人間の存在自体を揺るがすような根源的な恐怖が迫って来る…。


©2023「みなに幸あれ」製作委員会
©2023「みなに幸あれ」製作委員会
©2023「みなに幸あれ」製作委員会
©2023「みなに幸あれ」製作委員会











映画『みなに幸あれ』
出演:古川琴音 松大航也
原案・監督:下津優太 総合プロデュース:清水崇 脚本:角田ルミ 音楽:香田悠真
主題歌:「Endless Etude (BEST WISHES TO ALL ver.)」 Base Ball Bear ※レーベルロゴ
製作:菊池剛 五十嵐淳之 企画:工藤大丈 プロデューサー:小林剛 中林千賀子 下田桃子
助監督:毛利安孝 川松尚良 統括:古賀芳彦 撮影:岩渕隆斗 照明:中嶋裕人 録音:紙谷英司 美術:松本慎太朗 
スタイリスト:上野圭助 メイク:木戸友子 CG:橘剛史
製作:KADOKAWA ムービーウォーカー PEEK A BOO 
制作プロダクション:ブースタープロジェクト 
配給:KADOKAWA
©2023「みなに幸あれ」製作委員会

■公式サイト:https://movies.kadokawa.co.jp/minasachi/
■公式Twitter:@minasachi_movie




2024 年 1 月 19 日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開





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