“母の愛からは逃れられない”―車椅子の娘に向けられた毒母の狂気が暴走する。
『search/サーチ』の監督&製作陣が新たに描くサイコ・スリラー『RUN/ラン』公開中!
『search/サーチ』のアニーシュ・チャガンティ監督&製作チームが新たに描く戦慄と衝撃のサイコ・スリラー『RUN/ラン』が6月18日(金)よりTOHOシネマズ 日本橋他にて全国公開中。
レビュー
映像関係者やマニアの間で高評価が続々!
『RUN/ラン』の“地味だけど凄い”魅力
製作中の新作映画の関係で、オンラインの打ち合わせや会議をよく行っているが、周囲の映像業界関係者の間で、「最近見た中で面白かった映画」として複数の人が作品名を挙げ、絶賛したのが『RUN/ラン』だった(6/18より公開中)。
内容は記事後半の予告編を見てくれればわかるし、正直、事前の情報を知らない方がより楽しめる作品である。
パソコン画面だけで展開する異色サスペンス『search/サーチ』のアニーシュ・チャガンティ監督の第二作。
今回は奇をてらわない王道のサイコ・サスペンスだが、物語の核となるのが『親子』の関係だったり、前作を見ていると、思わずニヤリとする小ネタもたくさんある。
派手なパフォーマンスで話題を集めた前作と真逆の雰囲気だが、実はストーリーの骨格は似ており、今回も監督のやりたい&得意なテイストであることは間違いない。
つまり、一見全く違う題材に思えるが、作品の面白さの核心的な部分はしっかりと継承されているのだ。
しかも前作では、パソコン上の画面の切り替わりなど、他にはない視覚的なアイデアを駆使して緊張感を維持していた部分があったが、今回は舞台や人物を絞り、余計な要素をそぎ落とした分、逆に、正攻法の脚本や演出で、随所に観客を飽きさせない工夫を施している。
特に観客の“こうなったらヤバい”と予想する最悪の期待に応えつつ、さらにその先のサプライズや意外性、衝撃をもスリリングに掘り下げていく手法は、個人的には前作以上に見ごたえがあり、非常に出来が良いと感じた。
ただ、一般レビューを見ると、☆四つの高評価が目立つ一方、「『search/サーチ』と比べると地味」「『search/サーチ』と比較すると物足りない」という否定的な意見での☆三つも見られた。
たしかに、ストーリーはシンプルだし、ぱっと見の題材としては前作ほどのインパクトは感じられないだろう。
車いす生活を送る主人公が題材のサスペンスやスリラーと言えば、古くはヒッチコックの『裏窓』や、ジョージ・A・ロメロの『モンキー・シャイン』、広義の意味では、SFだけど、ジェームズ・キャメロンの『アバター』など、意外と多い。サブキャラまで含めれば、ホラーだけでも『悪魔のいけにえ』『フェノミナ』など挙げたらキリがない。ある意味で、定番中の定番なのだ。
前作『search/サーチ』であれほど注目された監督が次回作として、あえてこの手堅い題材を選んだ理由は何か?
そこで最初に書いた「映像業界の人たちに評判が良い」点がヒントになる。
本作を絶賛した映像関係者に話を聞くと、「脚本が細部まで練られている」「適度にリアルで適度に荒唐無稽」「編集が巧い」「一見地味だが、ライティングやカメラワークもさりげなく凝っていて、非常によく計算されている」と、プロの目線で技術的な評価が相次いだ。
また、ネット上でも、目の肥えたマニアの皆さんを中心に「地味だけど凄い」という評価が目立っていた。
注目された『search/サーチ』の後に
あえて『RUN/ラン』を手掛けた監督の狙い
端的に言えば、プロ好み、通好みの作品なのかもしれない。
事実、ほとんどのシーンが、家の中で、主人公の娘と母の二人だけで進行するものの、あの手この手で観客の度肝を抜く展開は、相当なテクニックと演出力がなければできないことだ。
監督の力量としては間違いなく、前作よりも洗練され、パワーアップしている。
一方で、そうは言っても、『search/サーチ』の監督だけに、『search/サーチ』を超える、もっとド派手な仕掛けの見せ場やキャスティングを期待した人もいただろう。
あえて、ヒロインに新人のキーラ・アレンを抜擢したのも、監督のイメージに合っていた部分があるとはいえ、何より彼女が現実の障害者で車いす生活を送っていて、役柄のリアルなお芝居ができる点に着目したからだ。そして、それは作品に抜群の効果をもたらしている。
母親役のサラ・ポールソン(「アメリカン・ホラー・ストーリー」)も、ひたすら怖い狂気の毒親像を掘り下げ、やりすぎなほど鬼気迫る熱演を見せる。これも名の知れたスター女優が演じたら、ここまで圧倒されないだろう。
俳優も脚本も映像も、すべての要素が、控えめながらも、話題性よりも、作品のクオリティ向上のために全力が注がれている。たしかに面白い。でも地味は地味である。
いったい監督はなぜこんな作品を作ろうと思ったのか。
ポイントは“二作目”にある。
無名の新人監督が、あえて注目を集めるために、斬新な題材、設定を選ぶことは珍しくない。
そして、名前を売った後の次回作で、今度は前作とは真逆の地味で手堅い作品を手掛けることも、実は意外と多いのだ。
たとえば、クリストファー・ノーランは、時間が逆行する異色のサスペンス『メメント』(監督二作目)で一躍注目されたが、その次回作では本格サスペンス『インソムニア』を手掛けた。
スティーブン・ソダーバーグも、現代的で斬新なデビュー作『セックスと嘘とビデオテープ』でカンヌを沸かせた後の監督二作目『K A F K A/ 迷宮の悪夢』では、一転してドイツ表現主義を意識した古典的な幻想サスペンスに挑戦している。
“観客の受け”だけを考えるのなら、注目された前作と同じ題材のバージョンアップを狙う方が無難だが、あえて違う、もっと言えば地味で手堅い題材を選ぶ理由はただ一つ。
「俺は、奇をてらった作品だけじゃなく、監督として、ちゃんと王道の演出もできるんだぜ」と業界にアピールしたいためだ。
斬新なアイデアで注目された新人監督ほど、次回作ではアイデアに頼らない実力を認められたいと思うもの。
特にハリウッドでは、それが出世コースにつながるからだ。
つまり、野心的な映画監督にとって、注目された作品の「次回作」とは、いつでもビッグバジェットで大ヒット作を生み出せる実力とテクニックを持った監督であることをアピールするための「営業用の作品」であることが多いのだ。
いわば本格メジャー・デビューのための前哨戦の作品である。
『RUN/ラン』もまさしくそんな作品だろう。
シンプルな題材ゆえに、玄人的なこだわりが逆に鮮明に浮き彫りにされる。
より大きなスクリーンで鑑賞すると、一見地味なショットにも、細部まで仕掛けが施されていることに気づく。音にもこだわりが感じられて、片時も気を緩められない。
こだわり抜いた、才気みなぎる映像の端々からは、監督の「どうですか?僕はいつでもメジャー作品を監督できる準備はできてますよ」というアピールが聞こえてくる。
クリストファー・ノーランが『メメント』『インソムニア』を手掛けた後、『バットマン ビギンズ』の監督に抜擢され、さらには『ダークナイト』の成功で、今日の地位を築いたように、アニーシュ・チャガンティ監督もまた、『search/サーチ』『RUN/ラン』を経て、次回作、次々回作でさらなる飛躍を遂げることは間違いない。
いずれはハリウッドを担う才能の一人になるであろう新鋭監督の、将来のフィルモグラフィーのターニングポイントになるかもしれない作品、それが『RUN/ラン』なのだ。
イントロダクション
『search/サーチ』(2018)の成功によって一躍、新世代スリラーの旗手となったアニーシュ・チャガンティ監督が、同じ製作チームと組んで完成させた長編第2作目となる『RUN/ラン』。
チャガンティ監督がスリラーの原点に回帰した意欲作でもある本作は、ヒッチコック作品のスタイルに新鮮な視点と独特なひねりを加え、ジャンル映画の王道をゆく醍醐味を追求している。
アメリカではコロナ禍を背景に、昨年 11 月に Hulu での配信がスタート。
配信初週における同サービス最高視聴者数の記録を更新。
多くの映画ファンの注目を集める本作がいよいよ今年、日本上陸!
【STORY】
ある郊外の一軒家で暮らすクロエは、生まれつき慢性の病気を患い、車椅子生活を余儀なくされている。
しかし常に前向きで好奇心旺盛な彼女は、地元の大学への進学を望み、自立しようとしていた。
そんなある日、クロエは自分の体調や食事を管理し、進学の夢も後押ししてくれている母親ダイアンに不信感をを抱き始める。
ダイアンが新しい薬と称して差し出す緑色のカプセル。
クロエの懸命な調査により、それは決して人間が服用してはならない薬だったのだ。
なぜ最愛の娘に嘘をつき、危険な薬を飲ませるのか。
そこには恐ろしい真実が隠されていた。
ついにクロエは母親の隔離から逃げようとするが、その行く手には想像を絶する試練と新たな衝撃の真実が待ち受けていた……。
監督・脚本:アニーシュ・チャガンティ 製作・脚本:セヴ・オハニアン
出演:サラ・ポールソン、キーラ・アレン
2020/英語/アメリカ/90分/5.1ch/カラー/スコープ/原題:RUN/G/字幕翻訳:高山舞子
配給・宣伝:キノフィルムズ 提供:木下グループ
公式サイト:run-movie.jp
公式Twitter:@RUN_moviejp
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6 月 18 日(金)よりTOHOシネマズ 日本橋他全国公開中
【関連作品】
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【レビューで紹介された作品】
メメント [Blu-ray]
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