【試写レビュー】『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』(6/18公開)。第一作の持ち味を引き継ぎながら、すべてにおいて洗練され、バージョンアップした傑作ホラー。

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【POINT1】
前作を見ていなくても楽しめる、
計算された見事な構成と仕掛け



(C) 2021 Paramount Pictures. All rights reserved.



最近の邦題の傾向として、あえてシリーズ物であることを強調しないタイトルが目立つが、本作もそうした一作。
初期の段階では、本国アメリカと同じ『クワイエット・プレイス PARTⅡ』だったが、正式な邦題から『PARTⅡ』が消え、『破られた沈黙』という副題がついた。

前作(第一作)以上のヒットを狙うためには、初めての人も動員する必要があるのだが、一方で、「前作を見ていないと楽しめないのでは?」と不安に思う人もいるだろう。

しかし、本作は、前作(第一作)を見ていなくとも十分楽しめる。

あえて、この第二作を見た後に、興味を持って、第一作を見ても面白いだろう。


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基本的な構成は前作と同じ。設定も登場人物も展開もシンプル。
音に反応する謎の「敵」の襲撃を受け、荒廃した世界で、人間はいかに音を立てずに生き残るか、そして、どう敵に立ち向かうか、というストーリー。

何の状況もわからないまま始めた、ホラー系のアドベンチャーゲームを楽しむ感じに近いだろうか。

もちろん、前作を見た人にとっては、主人公家族のその後が描かれ、前作を見ていると思わずニヤリとさせられる小ネタも散りばめられている。

同時に、脚本や演出、編集など、随所で前作とは異なる、新しい試みに挑戦しているため、マンネリに陥っていない。

たとえば、すでに公開されている、本作の冒頭シーン。






この崩壊した世界がいかにして生まれたのか、その発端(1日目)が描かれている。

これは時系列では、前作よりさらに前のエピソードである。
前作の大ヒットを受けて、予算が増えたため、前作ではほとんど描かれなかったモブ(群衆)シーンもふんだんに導入されている。

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これは、前作を見ている、見ていないにかかわらず、すべての観客にとって「初めて見る世界」だ。

今回の『破られた沈黙』の冒頭は、第一作よりも前の、平和だった日常からスタートし、そこにいきなり現れた“敵”の襲撃によって人々がパニックに陥っていく様子が描かれる。その上で、時系列的には第一作の後の、さらに荒廃した世界がメインに描かれる。

この冒頭によって、前作を見ていない人には、作品世界の状況が手短に理解できるし、前作を見ている人にも、前作とは違った視点で、作品のビギニングが明かされて楽しめるという具合だ。

前作を見ている、見ていないで、この冒頭シーンの印象もずいぶん変わるが、全編こんな感じで工夫が施され、シンプルながらも、誰もが違和感なく楽しめる構成はさすがである。







【POINT2】
凡百の侵略系SFホラーとは一線を画すクオリティと、
コロナ禍の現実と不気味にシンクロしたサバイバルストーリー


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前作では、予算の都合もあり、孤立無援の一家だけのシーンがほとんどだったが、今回は冒頭からモブ(群衆)シーンがあったり、主人公一家以外の生存者も現れ、スケール感はアップ。

何より“敵”の数も描写も大幅に増え、主人公一家のサバイバル・ホラーとしての見せ場も充実している。

こう書くと、製作が『トランスフォーマー』シリーズのマイケル・ベイ監督だし、いかにもハリウッド的な、ド派手な「敵の来襲」の見せ場の連打で、内容はスカスカな空虚な大作?と誤解されるかもしれない。

しかし、本シリーズの魅力は、極限状況に置かれた人々のサバイバルストーリーであり、今回も敵の描写は、あくまで象徴的に、謎のまま抑制されている。予算が増えたからと言って、敵を見せすぎず、恐怖感をリアルにじわじわと加速させる演出が効果を上げている。

人類を襲う“敵”の全貌は、宣伝上、あえて伏せているが、前作を見ている人はもちろん、予告編などでも見えるからわかるが、それほどの意外性はない。デザインや動き、音なども迫力はあるが、ハリウッド作品なら、よくあるパターンと思ってしまうかもしれない。






しかし、この作品が凡百のB級C級の侵略系SFホラーと一線を画すのは、そうしたありがちな敵の描写で油断させておいて、実は敵が想像以上に手ごわく、狡猾で、気が付けばあっという間に人類が餌食にされてしまうという、演出の巧妙さだ。

それは現実のコロナ禍で、「コロナなんて風邪みたいなものでしょ」と最初は油断していた人類があれよあれよとパンデミックに陥り、世界中の都市が次々と封鎖されてしまった状況にどこか似ている。

アメリカで本作がパンデミック後初めて一億ドルを突破する大ヒットとなったのも、そうした現実の閉塞感と、映画が不気味にシンクロしてしまったことも要因にあるのだろう。
あるいはワクチンの普及で、コロナ攻略の糸口が見えたことで、似た状況のホラー映画を楽しめる余裕が生まれのかもしれない。


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【POINT3】
前作を見た人も震え上がる、
研ぎ澄まされた殺戮の恐怖描写


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しかも、この作品がすごいのは、前作を見て、敵の恐怖に慣れてしまった観客をも、震え上がるほど恐怖描写がバージョンアップされている点だ。

たとえば前作では、音を立てて敵が来襲するまでに少し間があった。
いわゆる「来るぞ来るぞ、ドーン!」の『IT』や『死霊のはらわた』風だったり、「気が付くと、近くにまでいた」という『エイリアン(一作目)』のパターンだった。

今回は、前作の大ヒットを受けて、予算が大幅に増えており、監督自身もかなり研究したと見えて、怖がらせ方のバリエーションもまた各段に増えている。


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敵の数も増えて、音を立てた直後に息もつかせないスピードで、しかも予想だにしない方向から次々と襲い掛かり、人間を惨殺していく。
敵は前作とは比較にならない超進化ぶりで、これなら人類滅亡もおかしくないと思われるほど、凄まじい殺戮が繰り広げられる。

さらに、今回は登場人物が増え、「人間もまた怖い」と思わせる描写もあり、時として、敵の方に感情移入してしまうシーンもあったりして、ホラーの見せ場にも緩急が付けられ、前作とは異なる魅力を醸し出している。


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【POINT4】
あえてハリウッドの王道パターンを否定した
不穏なホラー編集が未体験の恐怖へ誘う


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筆者が本作で、特に面白いと思ったのは編集だ。

前作は、低予算ながらも、ハリウッドのエンタメ大作風の、観客を飽きさせない、テンポの良い編集がなされていた。
製作のマイケル・ベイがどこまで絡んでいるかは不明だが、前作が安定した評価で大ヒットを記録できたのは、ヒットメーカーのポスプロ等でのバックアップがあったのは想像に難くない。

しかし、今回は、ハリウッドのエンタメ編集のリズムから、少しだけタイミングを遅くずらすなどして、あえて違和感を感じるような、不穏な編集がなされている
(たとえば、過去の作品なら、ホラーの名作『オーメン』の有名な首切断シーンでは、編集のタイミングをあえて遅めにして、目をそむけた観客が「もういいだろう」とスクリーンに目を戻したタイミングで、首がスパンと切断されるように工夫されている)。

本作の音響効果やBGMも、編集同様、どこか居心地の悪さが全編に漂う。


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おそらく監督の意向と思われるが、こうした独特の編集を施すことで、観客は得体の知れない不安に駆られると共に、「次はこうなるだろう」という、映画を見慣れた観客の想像を次々と裏切る下地となり、予測不能な、未体験の恐怖に晒していくことになる
(もちろん、不安定ばかりではなく、ここ一番での決めカットや、ハリウッドらしい、たたみかける編集もちゃんと見られて、バランスも保っている。ヒロインが銃を撃つシーンなどは、すこぶるかっこいい)。

カットバックなども従来のハリウッドのパターンからは微妙にアレンジされているが、こうした意図的に不安定な編集が、実は、クライマックスのカタルシスへの伏線につながっていることは、正直驚かされた。

単に不安を煽るばかりではなく、最後には爽快感や高揚感、感動をも観客に与えるとは、いや、監督うますぎるわ。

低予算で本格的なエンタメ・ホラーを目指した前作も魅力的だが、本作はそこからさらに一歩踏み込んだ、オリジナリティあふれる作家性に富んだ傑作ホラーと言える。

監督の尋常ならざる恐怖へのこだわりを体感するためにも、できるだけ大きなスクリーン、音響の整った劇場で、じっと息をひそめて鑑賞することをお勧めしたい。

                                     (福谷修)


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■監督・脚本・製作・出演:ジョン・クラシンスキー 

■製作:マイケル・ベイ、アンドリュー・フォーム、ブラッド・フラ-
■出演:エミリー・ブラント、ミリセント・シモンズ、ノア・ジュプ、キリアン・マーフィ、ジャイモン・フンスー 

■北米公開:2021年5月28日 

■原題:A Quiet Place: Part II 
■配給:東和ピクチャーズ 

■コピーライト:(C) 2021 Paramount Pictures. All rights reserved. 
■公式サイト:https://quietplace.jp/ 

■公式Twitter:@Quietplace_JP









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