実話怪談 一番怖いのは現場 /第二話「恐ろしい映画」

連載・実話怪談




映画において、マスコミ向けの試写は、宣伝の第一段階だ。

ここで好意的な意見や反響を得られれば、テレビや雑誌などのパブリシティも期待できる上に、公開前後の一般観客の動向を予想しやすい。

映画の配給宣伝会社に勤めていたEさんは当時、あるマイナーな海外のホラー映画の宣伝を担当することになった。

著名なスターが出演するわけでもなく、強烈なモンスターが現れるわけでもない、映画祭で受賞したり、海外で大ヒットしたわけでもない、極めて地味な心霊ホラーだった。

一応、全国公開するものの、もともと他の作品との抱き合わせで買い付け、あくまでDVDをリリースする前の“箔付け上映”に過ぎなかった。なので、ことさら宣伝に力を入れる必要もなかった。

それでもEさんの提案した、インパクト重視のポスター・デザインや、ギャグすれすれの邦題&コピーが少しだけ話題になり、マスコミ試写にも予想以上の人が訪れてくれた。

「そこまでは順調だったんですよ」

Eさんは深いため息を漏らした。

実はマスコミ試写である異変が起きていた。

作品の鑑賞後に、耳から血を流した人がいたのだ。

大量の出血ではないし、痛みもない。ただ、右か左どちらかの耳が「何か粘り着くな」と思って触れると、指に血が付着してびっくりするという。

医者に診てもらっても原因はよくわからず、出血も最初だけですぐに収まった。

しかし五度のマスコミ試写で、申告されただけでも三人が耳から出血していた。

(ホラー映画を見た人から原因不明の出血!)

Eさんはとっさに「これは宣伝になる!」と色めき立ち、新たな宣伝コピーも思いついたが、そんなに甘い話ではなかった(当時のEさんはこの作品をどうやってアピールするかで頭がいっぱいだったのだ)。

仮にマスコミ試写で三人も出血したのなら、実際に公開したり、DVDをリリースしたら、どれだけの人が耳から出血するかわからない。

「そんな恐ろしい映画、公開できるわけないだろ」

Eさんの上司は驚き呆れた。単なる偶然かもしれないが、結局、映画は、公開はおろかDVDのリリースも中止になってしまった。

Eさんはどこか納得していない様子だ。

「ほら、昔のホラー映画って撮影中にスタッフやキャストが亡くなったりすると、積極的に『出演者が死亡!』とか宣伝に使ったって言うじゃないですか。なんで、この映画だけダメなのか……残念ですね」

ちなみにこの映画、海外では何のトラブルもなく公開され、DVD化もされている。

今の所、映画を鑑賞した人の耳から血が流れたという報告は日本だけだという。






(「怪異フィルム」より。画像はイメージ)




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