【試写レビュー】禍々しい傑作ホラー。清水崇は『樹海村』で『呪怨』を超えるのか? ~『樹海村』1/30,31先行公開、2/5(金)全国公開。

レビュー 映画



清水崇ならではの、独創的な恐怖の饗宴
濃密かつ重量級のホラー・エンタテイメント


©2021 「樹海村」製作委員会



正直なところ、昨年2月に公開された『犬鳴村』の大ヒットを事前に予測できた人はあまりいなかったのではないか。

理由として、コロナ禍はもちろん、ベストセラーの原作でもない完全オリジナル作品であり、キャスト的にも、ファンの大幅な動員が期待できるようなアイドルがほとんど出演していなかったから。
筆者もここまでのヒットは全く予測できなかった。

『犬鳴村』にも、もちろん知名度のある人気俳優が出演しているのだが、あくまで内容や監督のイメージが重視されている。つまり観客は純粋に企画として、「最恐の都市伝説&心霊スポット(犬鳴村伝説)」×「最恐の監督(清水崇)」という、二つの最恐要素の融合を期待したのだ。

実は都市伝説&心霊スポットと清水崇という組み合わせは今までありそうでなかったものだ。さらに、ここに東映というメジャーな制作環境が加わり、従来のマンネリ化したJホラーとは一線を引く、新鮮かつ得体の知れない特大級の怖さが体験できるかもしれないという、観客の好奇心をあおった。
その狙いは見事にロングラン・ヒットとなって結実した。時代を見据えた企画の勝利である。

そして、『犬鳴村』の大ヒットの最中より、早くも村シリーズの第二弾『樹海村』の製作が始動した。
コロナ自粛の解除後より、本格的に準備を進め、夏の間に一気に撮影をしてしまったという。メジャー作品としては驚くべきスピードとフットワークである。

しかも、ただでさえ手間のかかるホラーの撮影現場で、同時にコロナの予防も徹底しなくてはいけない(他にも、真夏の山中でのロケなど、虫対策、熱中症対策、安全対策も必要だ)。
このような厳しい状況下だけに、失礼ながら「撮れただけでも立派じゃないか」と思ったほどだ。

©2021 「樹海村」製作委員会



しかし、である。
2020年12月に試写で『樹海村』を鑑賞した時は腰を抜かすほど驚いた。

いやあ、滅茶苦茶面白いのである(=そして、怖いんである)。

これ、自粛中に脚本を練った(共同脚本)と思うけど、よくもこんなすごい見せ場が山盛りの作品を、短期間の制約だらけのコロナ禍で撮ろうと思ったものだ。

清水監督としては、やるからには前作『犬鳴村』を超えたかったのかもしれない。
いや、大ヒットという意味なら、ひょっとしたら社会現象となった『呪怨』さえも超えたいという思いがあったのかも。

そうとしか思えないほどの、『樹海村』は鬼気迫る見せ場の連続なのだ。

昨今やむなく撮影規模の縮小・延期を余儀なくされる映像業界で、安全に配慮しながら、あえて過酷な外ロケにもこだわり、現在の日本で、ここまでの濃密かつ重量級のホラー・エンタテインメントを撮り上げてしまうというのは驚愕すべきことだ。素直に感服せざるをえない。

©2021 「樹海村」製作委員会



冒頭から、曇天下の不穏なカメワークで、どこか『呪怨』を彷彿させる雰囲気は、ホラーファンなら思わずニヤリとしてしまうだろう。先の公開記念イベントで、片瀬美優役の工藤遥が「開始三秒ぐらいからずっと怖くて……」と話していたが、あながち冗談でもなく、とにかく全編で、清水崇の「本気で怖いものを撮る」という意気込みに満ちたイメージが次々と押し寄せる。

『呪怨』とはまた違ったアプローチで、過去と現在が交錯し、現実と幻想が入り乱れ、時空が歪み、不意打ちのように生々しい恐怖と衝撃が襲いかかる。
細部に古今東西のホラーのエッセンスが注がれ、そこに清水監督の大胆なアレンジも加わって、独創的な恐怖の饗宴へと昇華される。
その一つ一つの要素が、おぞましく、えげつなく、衝撃的で艶っぽく、俗悪の極みの美しさに彩られる。
「禍々(まがまが)しい」、まさにそんな言葉がぴったりと当てはまる。
そう、樹海の森の木々から地中、溶岩石、炎、死体、儀式、村人、箱……すべてが禍々しい。

©2021 「樹海村」製作委員会







樹海×コトリバコの融合
Wホラー・ヒロインの奇跡

基本的なストーリーの構造は『犬鳴村』と同様、都市伝説を『村』の伝承へと膨らませて、そこに登場人物が絡んでいく。

『犬鳴村』もそうなのだが、実は都市伝説とは長編映画に不向きの題材だ。

都市伝説は短いからこそ、想像が膨らんで怖く感じる。無理に長く引き伸ばせば、怖さは薄れてしまう。
『犬鳴村』にはまだ旧トンネルというわかりやすい実在の心霊スポットがあった。脚本もそこから巧みに物語を紡いでいる。

しかし今回の樹海は広大な森である。
たしかに自殺のメッカであり、様々な怖い噂、都市伝説が存在し、普通の森と比べれば薄気味の悪い雰囲気があるものの、実際に映像に撮れば、自然の神秘的な美しさが先立ち、ホラーの舞台装置としては物足りない。
いや、清水監督なら、それなりに撮れてしまうだろうが、そこは前作を超える作品を目指すであろうなら、ホラーとしてもう一工夫ほしいところと思ったかもしれない。

そこで登場するのが、もう一つの最恐都市伝説「コトリバコ」である。
(「コトリバコ」の説明は長くなるので、あえて控えるけど、ともかく触るだけでも強い呪いに見舞われる、世にも恐ろしい小箱)

©2021 「樹海村」製作委員会



つまり前作が都市伝説「犬鳴トンネル」×「清水崇監督作」の二重奏(デュオ)なら、今回は二つの都市伝説(「樹海」×「コトリバコ」)×「清水崇監督作」という三重奏(カルテット)なのである。

これがうまく機能した。樹海という巨大な迷宮の中で、コトリバコという呪いの箱がモノリスのごとく暗躍し、観客にリアルな恐怖を刻み込んでいくのだ。

たとえるなら『呪怨』における時系列が交錯する不穏な世界観で、加耶子や俊男くんが絶対的な恐怖として存在している感覚に近い。

“樹海”だけでは得られなかった、コトリバコの呪いの襲撃は『呪怨』さながらのストレートな恐怖を生み出す。清水監督の演出にも拍車がかかり、時として、『呪怨』を超える衝撃と切れの良さを感じるカットも多々ある。

そしてコトリバコという具体的な呪いの道具を得たことで、それを包む樹海そのものが巨大な呪いの震源地として、より説得力を持てるようになったのだ。

特に、“樹海村”の全貌が明かされる後半の、クライマックスに至る異様な盛り上がりは、コトリバコと樹海の融合から産み落とされた賜物であり、近年のJホラーの中でも出色の出来といえる。

そして、恐怖の象徴としての樹海×コトリバコの最恐タッグに対して、対峙するのが、Wヒロインの山田杏奈と山口まゆ演じる天沼響・鳴の姉妹である。

©2021 「樹海村」製作委員会



この二人が抜群にいい。
『犬鳴村』のヒロインも悪くはなかったが、『樹海村』のホラー・ヒロインは完璧である。

宿命を背負い、周囲から距離を置かれながらも、単身災いを解決しようとする妹の響。『ミスミソウ』で強烈な印象を残した山田杏奈だけに、眼力たっぷりに見事な存在感で観客の期待に応える。時に繊細に、時に大胆に、その体を張った熱演は、苦悶する姿にもほのかなエロティシズムを漂わせて、逆境に置かれれば置かれるほどに可憐さを増していく。その雄姿は、美少女ホラーの金字塔『フェノミナ』のジェニファー・コネリーを彷彿させるといったら、言い過ぎか。

©2021 「樹海村」製作委員会



さらに、そんな響に戸惑いながらも理解を示し、自らも絶望的な怪異に立ち向かう、対照的な姉・鳴役の山口まゆも演技派らしい抑制された芝居で、山田の熱演を支える。
互いの魅力を引き立て合うかのようなその共演は、まるで本当の姉妹のように、観客の共感を生む。
この姉妹ヒロインがいたからこそ、<樹海+コトリバコ>から生み出される、樹海村の衝撃的な真相がかつてない禍々しい恐怖となりえたのだと思う。

清水監督をはじめ、キャスト、スタッフが一丸となって、コロナや様々な逆境と闘いながら作り上げた渾身の傑作。

ぜひとも劇場のスクリーンで堪能してほしい。  

                       (福谷修)

©2021 「樹海村」製作委員会








【作品紹介】

『樹海村』



昨年2月に公開し、コロナ禍にもかかわらず、異例の興収 14 億円超えという大ヒットを果たした清水崇監督作品、『犬鳴村』。SNS で話題となり、高校生を中心にたくさんの人が劇場に足を運び、なんと動員数は 110 万人を突破。そんな「恐怖の村」シリーズの第 2 弾となる『樹海村』がいよいよ2月5日(金)公開される。

400館以上の超拡大上映、そして1月30日(土)、31日(日)には特別先行上映が決定。
公開記念スペシャル・イベント(LINELIVE) 開催やバーチャルシアターアプリ smash.での特別動画が配信されるなど、前作以上の話題を振りまいている。





421の上映館はこちらのURLからチェック!!

【上映館一覧】 http://theaters.toei.co.jp/TheaterList/?PROCID=02700



『樹海村』本予告編







【作品情報】
出演:山田杏奈 山口まゆ
神尾楓珠 倉悠貴 工藤遥 大谷凜香
監督:清水崇
脚本:保坂大輔 清水崇 企画プロデュース:紀伊宗之
©2021 「樹海村」製作委員会

www.jukaimura-movie.com


2021年2月5日(金) 公開







【清水崇監督関連情報】

『樹海村』の2月公開に合わせ、清水崇監督の傑作ビデオオリジナル『呪怨』『呪怨2』がデジタルリマスター版でBlu-ray 1枚に収録され、2021年2月10日(水)にリリース 決定!また『戦慄迷宮』【8Kリマスター2K特別版】Blu-ray、『呪怨 白い老女』『呪怨 黒い少女』DVDも同日発売!



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