Jホラーはいかにして生まれ、世界的に注目されるようになったのか?
“Jホラーを知り尽くした男”が明かす、Jホラーの知られざる舞台裏!
<「Jホラーのすべて 鶴田法男」連載バックナンバー>
序章「監督引退」
第一回「原点① …幽霊を見た… 」
第二回「原点② 異常に怖かった」
第三話「オリジナルビデオ版『ほん怖』誕生」
第四回「幻の『霊のうごめく家』初稿」
第五回「OV版『ほん怖』撮影秘話①」
第六回「誕生!“赤い服の女の霊”の真相(前編)OV版『ほん怖』撮影秘話②」
第七回「誕生!“赤い服の女の霊”の真相(後編)OV版『ほん怖』撮影秘話③」
第八回「検証!伝説的傑作『霊のうごめく家』はいかにして生まれたのか?(前編)~OV版『ほん怖』撮影秘話④~」
第九回「検証!伝説的傑作『霊のうごめく家』はいかにして生まれたのか?(後編)~OV版『ほん怖』撮影秘話⑤~」
第十回「フジテレビ版『ほんとにあった怖い話』誕生秘話~」
番外編 伊藤潤二×鶴田法男スペシャル対談!
番外編「ほん怖2020」ミスター“ほん怖”こと鶴田法男監督インタビュー(前編)。「傑作『顔の道』の撮影の舞台裏とは?」
番外編「ほん怖2020」特別企画!ミスターほん怖”監督インタビュー(後編)
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鶴田法男の映画をみよう。
一度本物の幽霊を見てみたいと思っている方に、鶴田映画をお薦めする。あそこに写っている幽霊は紛れもない本物だ。
黒沢清 (『亡霊学級』ちらし、1996年)
この本では、『霊のうごめく家』の黒沢評が掲載されています。他にもホラーファン必読の内容。
イントロダクション
『リング0』「ほんとにあった怖い話(ほん怖)」『おろち』などで知られる映画監督、鶴田法男。
最近も、4年がかりで取り組んだ100%中国資本の新作ホラー・スリラー映画『ワンリューシュンリン(原題)』(网络凶鈴/網絡凶鈴)が2020年10月30日より中国全土約5,000館で公開されるなど、精力的な活躍を続けている。
手掛けた映画、ドラマ、ビデオ、小説は優に200本は超え、その多くが高い評価を得ている。
中でも、90年代初頭のオリジナルビデオ映画版『ほんとにあった怖い話』(その後、稲垣吾郎ホストでTVシリーズ化)などが、後の黒沢清監督(『CURE』『回路』『スパイの妻』)、中田秀夫監督(『リング』『事故物件 恐い間取り』)、清水崇監督(『呪怨』『犬鳴村』)らの作品に影響を与えたことで“Jホラーの父”“Jホラーの先駆者”と呼ばれている。
この連載企画「Jホラーのすべて」は、そんな彼の作品を中心に、創作の舞台裏や、演出の秘密に迫りながら、今一度、「Jホラーとは何か?」を検証し、その全貌を明らかにしていく。
連載企画「Jホラーのすべて 鶴田法男」
第二話「原点② 異常に怖かった」
鶴田法男監督(以下、鶴田)、聞き手・福谷修(以下、福谷)
鶴田「僕は小学校3年の時に家の廊下で幽霊を見て、その後に、日本のいわゆる怪談映画を見たら、僕が見た幽霊とは全然違うなって思って……。あんまりその辺りの映像作品にはシンパシーを感じなかったんですけど、ちょうど僕が小学校6年くらいの時に、土曜日の深夜に『世にも不思議な物語』※というアメリカのテレビシリーズが再放送されていたんです」
福谷「いわゆる『ミステリーゾーン(トワイライトゾーン)』のようなアンソロジー系のドラマですね」
鶴田「一話30分の番組なんですけど、これが要するに心霊実話体験を再現ドラマ化する内容で、強烈だったんです。まあ、心霊に限らず、超常現象もひっくるめてなんですけど。
僕が見た幽霊に近いことをやっていて。白黒(の映像)だからってこともあるんでしょうけど、幽霊とか出てきても別に変な照明を当てたり、変な特撮を使ったりしない。
ただ、そこに人が立っているだけだったりするんですよね。それが怖くて。『あ、これだ』と。
だから、ほんとに夢中になって、数ヶ月かけて全話見終わった後に、一緒に見ていた兄貴と二人で1話ずつどういう話だったかを、記憶をたどってメモに書いてまとめた程なんです」
福谷「全話ですか?」
鶴田「そう、一話ずつのストーリーを書いた。それも実家のどこかに取ってあると思うけど……。いや、もう50年前だから、実家に帰ってもさすがに見つけられないな」
福谷「『世にも不思議な物語』は毎回、幽霊が出てくるんですか?」
鶴田「いや、幽霊の話だけじゃないですね。預言の話もあるし、水でガソリンを作った話とかもあります。共通しているのは、不可思議なことを、いかにも不可思議に描いていないことなんですね。
水でガソリンを作った人の話も、どうもほんとにいたらしい所から始まる。フォードだかどこだかの工場に謎の男が現れて、水からガソリンが作れると言う。で車のガソリンタンクに水を入れちゃって、錠剤を一つ出してぽんと入れる。すると、しばらくしたら、エンジンが本当にかかっちゃった。これは大変なことになった。うちで特許をとろうって大騒ぎになったんだけど、その男が突然行方不明になっちゃって。その後はわからないっていうことが、どうもほんとにあったらしい。
そういうことを大仰にではなく、淡々と描いている。だから怖かったんですよね」
福谷「逆にリアルですよね」
鶴田「オチというか、結論も出さないし。“あれは何だったんでしょう”で終わっちゃうから。怨念がどうとか原因はこうとかじゃないんですよ。
不可思議なものが、不可思議なものとしてこの世に存在しているという、その視点が怖かったですね。
今、実は日本でDVDが出ているんです。僕も買いましたけど。」
福谷「僕は子供の頃は見たことがなくて、後になって、ご指摘のDVDで数本見ました。
たしかに、実話であるがゆえに明確なオチがなく、地味だけど、得体の知れない不気味さがつきまとって、子供が震え上がるのも納得です。
鶴田監督が当時、『世にも不思議な物語』で特に印象に残っている回があれば教えてください」
鶴田「僕が一番怖いと思ったのは…『しみ』って作品ですね。
金持ちの奥さんと結婚した男に、愛人ができて、一緒になりたいもんだから、奥さんを殺しして、愛人を自分の家に住まわちゃってる。ところが奥さんを殺した数日後から、壁に染みができるようになる。実は壁には奥さんの肖像画が飾ってあったんだけど、『もういらないから捨てろ』って使用人に命じて捨てていた。でも使用人がその染みを消そうと思っても消せなくて、だんだんだんだん染みが大きくなっていく。そのうち、使用人が、どうもこの染みが『人の顔に見える』って言い出して…。
まあ、結末はだいたいわかると思うんですけど。これが異常に怖かった」
福谷「今となっては定番ですが、やっぱり怖いですよね。DVDには入っているんですか?」
鶴田「残念ながら、日本で出ているDVDには見当たらないんです。でも、数年前に高橋洋さんにその事を話したらアメリカの方でYouTubeに上がっているのを見つけてくれて、教えてくれたんです。念願かなってやっと再見できました。
で、見たら、こんなにチャチだったかなって、あんまり怖くなかったですね(笑)。
あと、会社の社長が奥さんを乗せて車の運転をしていたら少年が目の前に飛び出してきて、それを跳ね飛ばしちゃう話。せっかく自分の会社が軌道に乗ってきた時なのに、こんなことで会社も生活も台無しにしたくない、って。跳ねたのが黒人の少年だったかな。隠せばわからないよって話になって、森の中に埋めちゃうんです。
で、知らんぷりして日々の生活をしていく。ところがある日、社長室の留守番電話を再生してみると、『助けて…助けて…』って少年の声が入っている。社員たちに、その声を聞かせるんだけど、彼らには聞こえない。それで奥さんを連れてきて再生すると、『あの子の声じゃないの?』って……。あれは怖かった」
福谷「“ほん怖”に近い雰囲気ですね」
鶴田「だからコミック『ほん怖』を手にした時に、いける! って思ったのって、『世にも不思議な物語』が大好きで、あの感じが日本でできると思ったからなんですよ。
そういう意味では、僕にとって『世にも不思議な物語』の存在は大きいですね。」
(つづく)
次回は11月16日(月)の掲載予定です。
※諸般の事情で掲載が遅れる場合があります。あらかじめご了承ください。
注釈
※『世にも不思議な物語』
原題「ALCOA PRESENTS: ONE STEP BEYOND」(1959~61/モノクロ)。
毎回、実際に起きた不可解な事件や出来事を紹介し、ドラマで再現することで当時話題を集めた。監督のジョン・ニューランドがホスト役も務めた。
また、放送から20年後の1982年に『新・世にも不思議な物語』が製作され、こちらでもJ・ニューランドが監督とホスト役を務めている。
同じアンソロジー・ドラマでも、SF短編小説の趣が強い「ミステリーゾーン(トワイライトゾーン)」「アウター・リミッツ」が「世にも奇妙な物語」「ウルトラQ」の原点ならば、『世にも不思議な物語』はまさに「ほんとにあった怖い話」などの実話怪談ドラマの先駆けといえる。
なお、J・ニューランド監督は後にTVホラー・ムービー『地下室の魔物』(1973)を発表している。同作はギレルモ・デル・トロ製作・脚本で『ダーク・フェアリー』(2011)としてリメイクされた。
【参考作品】
「世にも不思議な物語」
『地下室の魔物』(廃盤)
『ダーク・フェアリー』(Blu-ray)
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【鶴田法男プロフィール】
1960年12月30日、東京生まれ。和光大学経済学部卒。
「Jホラーの父」と呼ばれる。大学卒業後、映画配給会社などに勤務するが脱サラ。
1991年に自ら企画した同名コミックのビデオ映画『ほんとにあった怖い話』でプロ監督デビュー。本作が後に世界を席巻するJホラー『リング』(98)、『回路』(01)、『THE JUON/呪怨』(04)などに多大な影響を与え、‘99年より同名タイトルでテレビ化されて日本の子供たちの80%が視聴する人気番組になっている。
2007年には米国のテレビ・シリーズ『Masters Of Horror 2』の一編『ドリーム・クルーズ』(日本では劇場公開)を撮り全米進出。
2009年、「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」コンペティション部門審査員。
2010年より「三鷹コミュニティシネマ映画祭」スーパーバイザーを務める。
角川つばさ文庫『恐怖コレクター』シリーズ他で小説家としても活躍中。
【主な映画】
『リング0~バースデイ~』(東宝/00)
『案山子/KAKASHI』(マイピック/01)
※ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2001、ファンタランド国王賞受賞
『予言』(東宝/04)
※ニューヨークトライベッカ映画祭正式招待作品
『ドリーム・クルーズ』(KADOKAWA/07)
※『Masters Of Horror 2』の一編として全米テレビ放映。
『おろち』(東映/08)
※釜山国際映画祭正式招待作品
『POV~呪われたフィルム~』(東宝映像事業部/12)
※2011南アフリカホラーフェスタ公式上映作品
2011ブエノスアイレス・ブラッドレッド映画祭公式上映作品
『トーク・トゥ・ザ・デッド』(ダブル・フィールド/13)
『Z~ゼット~果てなき希望』(SPO/14)
【主なTV】
『ほんとにあった怖い話』シリーズ(フジテレビ/99~)
『スカイ・ハイ』シリーズ(テレビ朝日/03、04)
『ウルトラQ dark fantasy』(テレビ東京/04)
『ケータイ捜査官7』(テレビ東京/08)
『怪奇大作戦 ミステリーファイル』(NHK-BSプレミアム/13)
【主な書籍】
「知ってはいけない都市伝説」(KADOKAWA/監修/13)
「恐怖コレクター」シリーズ(KADOKAWA/監修&共著/15~)
鶴田法男website
http://www.howrah.co.jp/tsuruta/
twitter
https://twitter.com/NorioTsuruta
【最新情報】
中国映画『ワンリューシュンリン(原題)』10月30日中国公開!
(鶴田法男監督関連作品)
『恐怖コレクター』シリーズ累計50万部突破!
巻ノ十四『集められた呪い』絶賛発売中!
https://tsubasabunko.jp/product/kyofucollector/321910000639.html
【最新刊】
巻ノ十五 終わりと始まり (予約受付中)
恐怖コレクター 巻ノ十五 終わりと始まり (角川つばさ文庫) 価格:748円 |
最新刊『怪狩り』シリーズ4巻発売中!
https://tsubasabunko.jp/product/kaigari/
怪狩り 巻ノ四 希望の星(4) (角川つばさ文庫)
『みんなから聞いた ほっこり怖い話(1)/幽霊の道案内』絶賛発売中!
鶴田法男Presents、サウンド・ホラー『THE PARANORMAL TELLER』無料配信中!
https://spinear.com/shows/the-paranormal-teller/
【福谷修プロフィール】
「DVD&ビデオでーた」(角川書店)などの映画雑誌のライターや、構成作家を経て、2000年に自主製作したオカルティック・ラブストーリー『レイズライン』にて、みちのく国際ミステリー映画祭オフシアター部門グランプリ受賞。2003年、プロ映画監督デビューした日本香港合作ホラー映画『最後の晩餐-The Last Supper』(加藤雅也主演)でスコットランド国際ホラー映画祭準グランプリ受賞。その後、『こわい童謡 表の章/裏の章』(多部未華子、安めぐみ主演)、『渋谷怪談 THEリアル都市伝説』(石坂ちなみ主演)、『心霊病棟 ささやく死体』(芳賀優里亜主演)、『劇場版 恐怖のお持ち帰り』(馬場良馬主演)など、数々のホラー映画を監督する。また、NintendoDSのホラー・アドベンチャーゲーム『トワイライトシンドローム 禁じられた都市伝説』の監督・シナリオを担当するなど、映画以外のホラー作品も手がける。作家としても、『渋谷怪談』(竹書房)でデビュー後、『子守り首』(幻冬舎)、『心霊写真部』(竹書房)、『霧塚タワー』『鳴く女』『怪異フィルム』(TOブックス)など著作多数。
中でも、『心霊写真部』は2010年に中村静香主演でDVDドラマ化され、一度は打ち切られたものの、ニコ生ホラー百物語などで再評価され、人気が沸騰。クラウドファンディングを経て、2015年に『心霊写真部 劇場版』(奥仲麻琴)、2016年『心霊写真部リブート』(松永有紗主演)が製作される。
2018年、アニメーション作家、坂本サクが監督を務める劇場用ホラー・アニメ映画『アラーニェの虫籠』(花澤香菜主演)を製作・監修・プロデュース。本作は、アニメ映画祭の世界最高峰、アヌシー国際アニメーション映画祭にて正式上映された他、四大アニメ映画祭の一つ、ザグレブ国際アニメーション映画祭の長編コンペティション部門にノミネートされるなど、ドイツ、カナダ、台湾など、世界中の国際映画祭で招待上映され、好評を博した。新作はホラー・アニメ映画『アムリタの饗宴』(製作・プロデュース・監修)で2021年公開予定(令和二年度文化庁文化芸術振興費助成作品)。他に実写のホラー映画を準備中。
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https://twitter.com/o_fukutani
(福谷修関連作品)
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