人気連載企画「Jホラーのすべて 鶴田法男」第6回「誕生!“赤い服の女の霊”の真相!OV版『ほん怖』撮影秘話②」 秘蔵資料と共に明かされるJホラー誕生の真実!

pick-up オススメ 連載・Jホラーのすべて 鶴田法男



Jホラーはいかにして生まれ、世界的に注目されるようになったのか?
“Jホラーを知り尽くした男”が明かす、Jホラーの知られざる舞台裏!

第六回は、有名な“赤い服の女の霊”の真実!



<「Jホラーのすべて 鶴田法男」連載バックナンバー>

序章「監督引退」
第一回「原点① …幽霊を見た… 」
第二回「原点② 異常に怖かった」
第三話「オリジナルビデオ版『ほん怖』誕生」
第四回「幻の『霊のうごめく家』初稿」
第五回「OV版『ほん怖』撮影秘話①」
第六回「誕生!“赤い服の女の霊”の真相(前編)OV版『ほん怖』撮影秘話②」
第七回「誕生!“赤い服の女の霊”の真相(後編)OV版『ほん怖』撮影秘話③」
第八回「検証!伝説的傑作『霊のうごめく家』はいかにして生まれたのか?(前編)~OV版『ほん怖』撮影秘話④~」 
第九回「検証!伝説的傑作『霊のうごめく家』はいかにして生まれたのか?(後編)~OV版『ほん怖』撮影秘話⑤~」
第十回「フジテレビ版『ほんとにあった怖い話』誕生秘話~」
番外編 伊藤潤二×鶴田法男スペシャル対談!

番外編「ほん怖2020」ミスター“ほん怖”こと鶴田法男監督インタビュー(前編)。「傑作『顔の道』の撮影の舞台裏とは?」

番外編「ほん怖2020」特別企画!ミスターほん怖”監督インタビュー(後編)

※他にも、関連記事が多数あります。随時リンクを貼っていく予定です。(それまでは検索でお探し下さい)

鶴田監督が小三の時に幽霊を見た自宅の廊下。男は突き当たりを襖をすっと抜けていった。連載第一回「原点①…幽霊を見た…」より







鶴田法男の映画をみよう。


一度本物の幽霊を見てみたいと思っている方に、鶴田映画をお薦めする。あそこに写っている幽霊は紛れもない本物だ。



                                黒沢清 (『亡霊学級』ちらし、1996年)





映画はおそろしい 新装版


この本では、『霊のうごめく家』の黒沢評が掲載されています。他にもホラーファン必読の内容。







イントロダクション

鶴田法男監督


『リング0』「ほんとにあった怖い話(ほん怖)」『おろち』などで知られる映画監督、鶴田法男

最近も、4年がかりで取り組んだ100%中国資本の新作ホラー・スリラー映画『ワンリューシュンリン(原題)』(网络凶鈴/網絡凶鈴)が2020年10月30日より中国全土約5,000館で公開されるなど、精力的な活躍を続けている。

手掛けた映画、ドラマ、ビデオ、小説は優に200本は超え、その多くが高い評価を得ている。

中でも、90年代初頭のオリジナルビデオ映画版『ほんとにあった怖い話』(その後、稲垣吾郎ホストでTVシリーズ化)などが、後の黒沢清監督(『CURE』『回路』『スパイの妻』)、中田秀夫監督(『リング』『事故物件 恐い間取り』)、清水崇監督(『呪怨』『犬鳴村』)らの作品に影響を与えたことで“Jホラーの父”“Jホラーの先駆者”と呼ばれている。

この連載企画「Jホラーのすべて」は、そんな彼の作品を中心に、創作の舞台裏や、演出の秘密に迫りながら、今一度、「Jホラーとは何か?」を検証し、その全貌を明らかにしていく。








今回の記事(第六回)を読まれる前に…



今回より取り上げるのは、傑作『霊のうごめく家』などが収録された、伝説的なオリジナルビデオ版『ほんとにあった怖い話 第二夜』です。

鶴田監督のプロ監督デビュー作にして、Jホラーの原点というべきオリジナルビデオ版『ほんとにあった怖い話』シリーズ(全三巻/後にフジテレビでTVシリーズ化)。
その記念すべき1作目が発売されたのは1991年7月5日。今年でちょうど30周年を迎えました。

記念すべき第一作・オリジナルビデオ(OV)版『ほんとにあった怖い話』VHSジャケット1991年7月5日発売。現在はVHS、DVD共に廃盤。



発売日の7/5、30周年を迎えたタイミングで、中断していた当連載を再開しました(第五回「OV版『ほん怖』撮影秘話①」)
この回より当面はオリジナルビデオ版『ほんとにあった怖い話』の知られざる撮影秘話を中心に記事を掲載する予定です。


Jホラーの原点・OV版『ほんとにあった怖い話』を鑑賞する方法
ビデオマーケット、GYAO!、そしてAmazon Prime Videoが追加に


OV版「ほん怖」第三話「赤いイヤリングの怪」


Jホラー史においても非常に重要なオリジナルビデオ版『ほんとにあった怖い話』(以下、OV版「ほん怖」)ですが、ビデオ(VHS、DVD)が廃盤で、レンタルもほとんど流通していませんでした。

現在、シリーズ三作すべてがネット配信で鑑賞できるのがビデオマーケットです。
他にGYAOでは「ほんとにあった怖い話」と「ほんとにあった怖い話 第二夜」の二話を配信中。

その後、当サイトでの連載が続く中、7月発売の別冊映画秘宝「恐怖! 幽霊のいる映画」での鶴田監督インタビュー、「読売新聞 日曜版」(2021年8月15日)、雑誌「POPEYE」(9月号)などのメジャーなメディアで、鶴田監督とOV版『ほんとにあった怖い話』の記事が掲載されるなど、再評価の機運の高まりもあって、この秋より、Amazon Prime Videoにて配信がスタートしました。
チャンネルは「MEN’S NECO+オンデマンド」となります(「ほんとにあった怖い話」「ほんとにあった怖い話 第二夜」の二話が配信中)。

ほんとにあった怖い話


Amazon Preime Video

※画像クリックでAmazon Prime Videoの紹介ページを確認できます





このほかの主な鑑賞方法


ほんとにあった怖い話 
(一作目/1991年7月5日発売)「ひとりぼっちの少女」「幽体飛行」「赤いイヤリングの怪」収録

ほんとにあった怖い話 第二夜 
(二作目/1992年1月24日発売)「夏の体育館」「霊のうごめく家」「真夜中の病棟」

新ほんとにあった怖い話 幽幻界 
(三作目/1992年7月24日発売)「婆 去れ!!」「踊り場のともだち」「かなしばり」「廃屋の黒髪」

※タイトルのクリックで、ビデオマーケットの各作品の紹介ページを確認できます。




Yahoo!のGYAO!でも二作品がレンタル配信中(現在、期間限定でレンタル110円セール中)。

ほんとにあった怖い話

ほんとにあった怖い話 第二夜




さらに、東京・渋谷のSHIBUYA TSUTAYAでは、なんと最初のVHS版「ほんとにあった怖い話 第二夜」がレンタルできます。
筆者も実際に借りてみました。ジャケットはさすがに30年物ですが、もちろんデッキで再生できました。
発売当時のままの雰囲気で楽しむには最適のアイテムです。

実際に棚に並んでいたVHSジャケット。実際に借りて鑑賞しました。




今回の記事の参考に、未見の方はこの機会をお見逃しなく!










連載企画「Jホラーのすべて 鶴田法男」


第六回「誕生!“赤い服の女の霊”の真相<前編> ~OV版「ほん怖」撮影秘話②~」


■鶴田法男監督(以下、鶴田)、聞き手・福谷修(以下、福谷) ※は注釈



福谷「前回は、OV版『ほんとにあった怖い話』(第一巻)の撮影秘話が中心でした。
監督として初めてプロの撮影現場に臨み、苦闘しながら、作品を完成された経緯が明かされました。
今回は、いよいよ傑作『霊のうごめく家』など、Jホラーの独自のスタイルを確立された記念碑的なOVホラー『ほんとにあった怖い話 第二夜』です。」






鶴田「今回も、前回(第一作)同様、このOV版『ほん怖』の資料を用意しました。
これは『ほんとにあった怖い話 第二夜』のビデオレンタル店向けの注文書ですね。リリースの前に配布されます」


福谷「引き続き貴重な資料をありがとうございます。
前回も書きましたが、注文所とは当時、町中にチェーン店以外の(個人経営などの)ビデオレンタル店がたくさんあって、店ごとに予約締切日までに発注して入荷するためのものです。一般の方はほとんど目に触れる機会がないと思います。
すでにタイトルに[第二夜]と入っていたり、後と名作である第五話『霊のうごめく家』のタイトルが印刷されている点も、感慨深いですね。
まさか30年後に「読売新聞」の一面で大きく取り上げられるとは夢にも思わないでしょうね(笑)。
さて、注文書にも書かれている通り、「第二夜」に収録された作品は「夏の体育館」「霊のうごめく家」「真夜中の病棟」の三つ。
まずは『夏の体育館』から。
女子高生三人組が夏休み、夜の体育館に忍び込み、怪異に襲われる内容です。
『霊のうごめく家』ほど有名ではありませんが、この作品もJホラーを語る上で欠かせない重要な作品と思います。」



第四話「夏の体育館」 (C)1991朝日ソノラマ、ジャパンホームビデオ



福谷「今回も原作の雑誌『ほんとにあった怖い話』(現「HONKOWA」) を手掛けた編集者、長谷川まち子さんのご厚意で、超貴重な漫画版『夏の体育館』のスキャン原稿をお借りしています。」




【原作の雑誌『ほんとにあった怖い話』(現「HONKOWA」)『夏の体育館』(扉)】

©市川みなみ/朝日新聞出版




鶴田「前回の『ひとりぼっちの少女』、『幽体飛行』に続いてこれも懐かしい原作漫画です(笑)。
1991年7月に1作目が発売されて、予想以上のヒットだったので、直ぐに『2』を作ろうとなったんですよね。
で、その時に真っ先に思ったのは、今度は思い通りに撮りたいということでした。
1作目をやってみて、JHVの伊藤直克プロデューサーとも意思の疎通が図れるようになったし、鶴田法男という監督の能力や人間性は分かってくれたので、前回の反省点を踏まえて鶴田がやりやすいメンバーを集めようとなった。
それはありがたいと思いました。
でも、そうなると、『それで大丈夫なの?』と、逆に私が不安を覚えてしまって……。」



福谷「え? なぜですか? ありがたい話ですよね?」


鶴田「いや、いち映画ファンとしては、「自分の思い通りに作れました」とおっしゃっている監督の作品がかえってつまらないことが多い気がしていたんですよ。天邪鬼というか、監督としての業が深いというか(笑)。
なにしろ、『ほん怖』の映像ドラマ化は私がゼロから企画していますから、助監督経験も無い素人監督の自分がやりやすいということで良いのだろうか? という疑問が生じてしまってですね(苦笑)。
で、独りよがりな作品にならないようにしたい、とも思ったんです。
それで、原作を選ぶ時に1本は脚本の小中さんに任せようと思ったんですね。
もちろん、1作目で映像化し損ねた『霊のうごめく家』を絶対に実現させたいと思っていましたし、もう一本、『真夜中の病棟』という看護師さんが理不尽な恐怖を味わう原作を映像化したいと思っていたので、この2本は私が原作を選んで脚本、もしくは詳細なプロットを書いて小中さんに渡しました。
『夏の体育館』は小中さんに原作選びから脚本までをお任せすることにしたんです。
でも、ちょっと失敗したなと思う点はありますね。」



福谷「『失敗した』ですか?」


鶴田「クレジットの表記ですね。脚本に自分の名前を入れなかったことですね。
『霊のうごめく家』は私が自分で書いた脚本がありましたし、『真夜中の病棟』は詳細なプロットを書いて小中さんに渡したので、1作目と同様に「共同脚本」とすることを小中さんに提案することは可能だったのですが、そうはしなかった。
そのせいで、『女優霊』、『リング』の脚本をお書きになる高橋洋さんらは本作の「成り立ち」を少し勘違いされたようで……。
まあ、この辺のことはここで語ることでは無いので止めておきます」










福谷「では、次に第四話「夏の体育館」、第五話「霊のうごめく家」、第六話「真夜中の病棟」の撮影順、撮影日数等を教えてください。もし資料等がありましたら、掲載させていただけたらと思います。」


鶴田「台本と絵コンテが押し入れの奥から出てきました。」




OV「ほんとにあった怖い話 第二夜」台本(鶴田法男所蔵)



鶴田「台本の後ろのページにこんな予定表が書いてあります。」



『ほん怖第二夜』台本最後のページ




鶴田「1991年7月8日にクランクイン、一話2日撮りで1日だけ撮休を入れて、14日にクランクアップしてますね。
撮影順は『霊のうごめく家』、『夏の体育館』、『真夜中の病棟』です。
『夏の体育館』は1991年7月11日と12日、茨城県に合宿して撮ったんです。
ああ、そう言えば、撮影にお借りした体育館が蒸し風呂のように暑くて、主演の3女優さんに「汗をかくんじゃない!」と無茶な注文をしたのを思い出しました。
今だとパワハラとか言われちゃうんですかね(苦笑)。」










Jホラーのエッセンスが凝縮された
隠れた秀作「夏の体育館」



福谷    「夏の体育館」には、今日まで続く「ほん怖」の原形というべき、すべての要素が入っていると思います。
「夏の体育館」でJホラーの基本フォーマットが出来上がり、「霊のうごめく家」で、映像作家としての飛躍があったと思いましたが、撮影順は逆なんですね(苦笑)。

「夏の体育館」を映像化する際、心がけたことや、「こう撮ってやろう」とこだわった点があれば教えてください。少なくとも、何かと自由に撮れなかった前回(Vol.1.)と比較して、「ホラーとはこうあるべき(こう撮るべき)」といった思いがあれば。」



鶴田「ホラーとはこう撮るべき」という問いには、「怖い物を見せる」ではなくて、「怖く魅せる」ということですね。
90年代、私のOV版『ほん怖』がヒットしたので何人かのプロデューサーから連絡をもらって、既に書き上がっている脚本を渡されたんですけど、どれも「怪奇倶楽部」や「霊能者」が主人公になっていて、最初から「怖い物」が存在しちゃってるんですよね。
で、「怖い物を怖く見せることは誰でも出来るけど、怖くない物も怖く魅せるのが私の考えるホラーなんだ」というと理解してもらえなくてですね。」



福谷「理解してもらえないというのは?」


鶴田「例えば、「悪魔」って怖い存在があってホラー映画に頻繁に登場しますよね。
でも、悪魔が登場したら怖くなるのかというとそうじゃない。
逆に言うと、ホラーって「まんじゅうこわい」ってことがまさに描けるんですよね。
「まんじゅう」じゃなくても「豆腐が怖い」って描けるのがホラーだし、それを描くのがホラーだと思うんです。
「怖いまんじゅう」とか「怖い豆腐」は存在しないけど、ホラーでは「まんじゅう」や「豆腐」が怖ろしい存在であると描くことが出来る。
それこそがホラーの醍醐味だし、ホラー映画を撮る意味だと思うんです。
つまり、「価値観の変換」とか、もっと言えば「パラダイムシフト」にも繋がるのかも知れませんが、「本物のホラー」ってそういうことだと思うんです。」



“本物のホラー”は社会の価値観を変える




鶴田「1974年に『エクソシスト』が日本公開されて大ヒットしたせいで、日本のホラー映画の代表格だった『四谷怪談』や『牡丹灯籠』なんかはまったく作られなくなっちゃったんですよね。やっぱり古くさくなってしまった。
でも、1991年に私がOV『ほん怖』を発表して、それの影響を受けた『リング』が1998年にヒットして以降、日本のホラーが市民権を得ることになった。
『エクソシスト』以降、日本のホラーはヒットしないと言われていたのがごろっと変わった。『感染』の落合正幸監督から教えてもらいましたが、落合監督が1996年に『パラサイト・イヴ』を撮ることになった時にフジテレビから、「ホラーにするな。日本ではホラーはヒットしない」と最初に言われたそうですからね。ところがその後、『リング』がヒットする。そうするとフジテレビは、私が映像化を手がけてきたコミック『ほん怖』を、1999年からゴールデンタイムのドラマとして放映を始めたわけです(笑)。社会全体の価値観があっと言う間に変わってしまう。」



福谷「 原作コミックの冒頭(画像)とは異なりますが、映像版「夏の体育館」の冒頭は、三人の少女が夏の午後、田園を下校するシーンから始まります。そこには、じめっとした、湿り気のある、不穏な空気が漂います。

フジテレビ版の「ほん怖」はもちろん、ある意味で黒沢清監督のホラーや、清水崇監督の「呪怨」などにも通じる、Jホラーの原初的な怖い雰囲気です。
この画像の色のトーンや音響効果、BGM、芝居、撮影方法等は以前からの鶴田監督のスタイルなのでしょうか。それともこの作品で生まれたものなのでしょうか。」


鶴田「「じめっとした不穏な空気」と私の作品評価でよく言われるのですが、それはこの『第二夜』で確立したんだと思います。
この時は、ビデオ撮りの綺麗な画面にしたくなくて、撮影後にかなり画質をいじりましたからね。
でも、照明技師さんは「こんなぼやけた画面にするとは思わなかった」とショックを受けていらしたようで、ちょっと心苦しかったですけどね。」



福谷「体育館の中で、座って、たたずむ男の幽霊は『回転』のような雰囲気もあります。原作はこんな感じです。」



©市川みなみ/朝日新聞出版



福谷「原作も不気味です。原作では頭がうなだれていますね。
しかし映像ではあえて、ぼんやりと描き、少女たちを「見ている」ような解釈もできるようにしています(顔ははっきり見えないが、なんとなく見ているように見える)。
幽霊のお芝居や、撮り方には、どんなこだわりがあるのでしょうか。」



鶴田「30年前なので、その辺の細かいことは忘れました。でも、絵コンテはこれですね。」



『ほん怖 第二夜』舞台上の幽霊絵コンテ① 鶴田法男所蔵
『ほん怖 第二夜』舞台上の幽霊絵コンテ② 鶴田法男所蔵



福谷「絵自体はシンプルなのですが、指示というかイメージが具体的なので、映像を見ていなくても、不気味な怖い雰囲気が伝わりますね。こうやってJホラーのスタイルが確立させていったのですね。一ファンとしても素晴らしいです。
それと、この作品では尾形さんの音楽も印象に残ります。
尾形真一郎さんとは今回が初めてでしょうか。
この後、鶴田監督とは「戦慄のムー体験」「亡霊学級」、(TV版含む)「ほん怖」、『リング0 バースデイ』『案山子』と多くの作品で組んでいます。
過去のDVDのコメンタリーでは「最初はそこまでぴったり合う曲ではなかった」と鶴田監督は仰っていますが、実際、「夏の体育館」の音楽はどうだったのでしょうか。監督からの注文や、やりとりがあれば教えてください。」



鶴田「尾形さんとはこの時が初めてですね。
後に『死人の恋わずらい』を撮る渋谷和行監督に紹介してもらったんですよ。実は、渋谷監督とは大学の同級生で、当時、『つのだじろうPresents こわい話』という芸能人、文化人が怪奇体験を語るだけのビデオを彼が撮ったのでそれを観たら音楽がとても不気味で良かったのでお願いしようと思ったんです。
でも、尾形さんは劇伴の専門家ではないし、ホラーに詳しいわけでもないのでも、その辺は少し食い違いがありましたね。
確か、最初の打合せの時にピノ・ドナジオ作曲『デビルス・ゾーン』や、ジョン・カーペンター作曲『ザ・フォッグ』のサントラを渡した記憶があります。」










Jホラーの定番
“赤い服の女の霊” 誕生の真相



福谷「原作のエピソードが二つあって、それらをミックスして映像化しようと思ったのは尺の問題でしょうか。
その流れでクライマックスに、“赤い服の女の霊”が再び登場します。脚本の段階で、すでに鶴田監督の展開のアイデアは完成していたのでしょうか。」



鶴田「いや、前にお話ししたとおりで『夏の体育館』は原作選びから脚本作りまで、小中さんにお任せする方針でしたので。」


福谷「多くの人が指摘しているように、Jホラー史的に、この「赤い服の女の霊」はとても重要と思います。
映像としては、この「夏の体育館」で初めて登場し、以後、数多くの作品で恐怖を振りまいています。
ちなみに「夏の体育館」の原作では、1コマのみの登場です。後半には登場しません。」



©市川みなみ/朝日新聞出版



福谷「この原作のイメージを基に膨らませて、鶴田監督は今日まで強い印象を残すホラー・キャラクターを創出しました。
鶴田監督はこの赤い服の女の霊をどう映像化しようと思ったのですか。」



鶴田「「赤い服の女」は原作のコミック「ほんとにあった怖い話」にそう書いてあっただけですからね。
それを小中さんが脚本で膨らませて、それを私が演出でさらに膨らませた。それだけのことです。。
しかし、衣装合わせの時に、「緑」とか「黄色」とかの衣装も用意したんですよ。でも、やっぱり「赤」が一番映えるよね、ってスタッフとも意見が一致して原作の台詞の「真赤なワンピース着てる……」の通りの女幽霊になりましたね。」


福谷「これも有名な話ですが、黒沢清監督のホラー作品には、この“赤い服の女の霊”がたくさん出てきて印象に残っています。
映画ファンの中には、これを黒沢監督のオリジナルと勘違いされている方も多いと思います。
初期のビデオ作品からメジャー作品の『回路』にも登場し、近作の『叫』ではポスターにもなっています。」



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福谷「もちろん黒沢監督は無断で使用したというより、ことあるごとに鶴田監督と作品を絶賛していますし、説明もしていると思います。
ただ、なぜ、オリジナリティにこだわる黒沢監督があえて鶴田監督のホラー・キャラを使い続けるのか、そこが謎めいて理解に苦しむ面もあります。
鶴田監督ご自身はどう思われますか?」



鶴田「黒沢監督に失礼な言い方になるかも知れませんが、黒沢監督はオリジナリティに決してこだわっていないと思います。
ご自分が魅了された作品の影響は臆面も無く出されるタイプだと思います。

『CURE』の創作のきっかけは『羊たちの沈黙』を観て、殺人鬼が動かないのに事件が起きていく物語に感心したからだとおっしゃっていましたよね。
明確なところだと、関西テレビ『学校の怪談G』の高橋洋さん脚本の黒沢監督作品『木霊』は音楽が『ヘルハウス』の音楽とソックリでしたよ。
黒沢監督は以前から『ヘルハウス』をとても高く評価されてますからね。
あと、『降霊』の木の陰に立っている女の幽霊は『回転』の川向こうに立ってる女の幽霊ととても似てる。
それと、『DOORⅢ』のドアは『悪魔のいけにえ』にそっくりだし、諏訪太郎さんがトラックに轢かれるショットも『悪魔のいけにえ』へのオマージュがうかがえます。黒沢監督は『悪魔のいけにえ』も大変に高く評価されていますからね。
私の演出の一部が黒沢清監督作品に応用されたのは関西テレビ『学校の怪談』の『花子さん』が最初だと思います。
1994年の関西地区のみで放映されたバージョンですね。黒沢清作品に「赤い服の女」が初めて登場したのはこれじゃないかと思うんですけどね。
で、トイレのシーンのカメラアングルとかが、私の『ほん怖』の『ひとりぼっちの少女』と似てるんですよね。扉と人物を真あおりで撮ったりしてる。というか、私がキューブリックの『シャイニング』のジャック・ニコルソンの真あおりショットの真似をしたんですけどね(笑)。
黒沢監督とそれほど親しいわけではありませんが、今まで何度かお話をしてきている中で「赤い服の女」について話し合ったことはないですね。
でも、Jホラー・ファンや、黒沢清監督のファン、そして、福谷さんのように鶴田を評価してくださる方も居るわけですから、いずれ黒沢監督とその辺の話をして、皆さんにご報告するべきなのかも知れませんね。
私はとにかく黒沢清監督に対して大変感謝しております。
なにしろ、OV版『ほん怖』の時からあちらこちらで賞賛してくださったわけです。
しかも、ご自分のホラー作品が賞賛を受けるとそのコメントで「こういうスタイルの恐怖演出を最初に手がけたのは鶴田法男である」と公言してくださったわけですからね。
それは、高橋洋さんも中田秀夫監督も同様です。ですから、福谷さんを含めてJホラーを支えてきた映画作家さんには感謝するばかりです。」




後編へ続く(後編は9/16の予定です)※諸般の事情で遅れる場合があります。






【鶴田法男プロフィール】

鶴田法男監督


1960年12月30日、東京生まれ。和光大学経済学部卒。
「Jホラーの父」と呼ばれる。大学卒業後、映画配給会社などに勤務するが脱サラ。
1991年に自ら企画した同名コミックのビデオ映画『ほんとにあった怖い話』でプロ監督デビュー。本作が後に世界を席巻するJホラー『リング』(98)、『回路』(01)、『THE JUON/呪怨』(04)などに多大な影響を与え、‘99年より同名タイトルでテレビ化されて日本の子供たちの80%が視聴する人気番組になっている。
2007年には米国のテレビ・シリーズ『Masters Of Horror 2』の一編『ドリーム・クルーズ』(日本では劇場公開)を撮り全米進出。
2009年、「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」コンペティション部門審査員。
2010年より「三鷹コミュニティシネマ映画祭」スーパーバイザーを務める。
角川つばさ文庫『恐怖コレクター』シリーズ他で小説家としても活躍中。


【主な映画】

『リング0~バースデイ~』(東宝/00)

『案山子/KAKASHI』(マイピック/01)

※ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2001、ファンタランド国王賞受賞

『予言』(東宝/04)

※ニューヨークトライベッカ映画祭正式招待作品

『ドリーム・クルーズ』(KADOKAWA/07)

※『Masters Of Horror 2』の一編として全米テレビ放映。

『おろち』(東映/08)

※釜山国際映画祭正式招待作品

『POV~呪われたフィルム~』(東宝映像事業部/12)

※2011南アフリカホラーフェスタ公式上映作品

   2011ブエノスアイレス・ブラッドレッド映画祭公式上映作品

『トーク・トゥ・ザ・デッド』(ダブル・フィールド/13)

『Z~ゼット~果てなき希望』(SPO/14)


【主なTV】

『ほんとにあった怖い話』シリーズ(フジテレビ/99~)

『スカイ・ハイ』シリーズ(テレビ朝日/03、04)

『ウルトラQ dark fantasy』(テレビ東京/04)

『ケータイ捜査官7』(テレビ東京/08)

『怪奇大作戦 ミステリーファイル』(NHK-BSプレミアム/13)


【主な書籍】

「知ってはいけない都市伝説」(KADOKAWA/監修/13)

「恐怖コレクター」シリーズ(KADOKAWA/監修&共著/15~)


鶴田法男website
http://www.howrah.co.jp/tsuruta/

twitter
https://twitter.com/NorioTsuruta








【最新情報】


中国本土で撮った新作映画『ワンリューシュンリン(原題)』
2020年10月30日中国5000館で公開!日本公開が待たれます!

https://youtu.be/jYB0R9AmdHw








(鶴田法男監督関連作品)

リング0 ~バースデイ~ [Blu-ray]



予言 [DVD]



おろち [DVD]


『恐怖コレクター』シリーズ累計60万部突破!

恐怖コレクター 巻ノ十六 青いフードの少年 (角川つばさ文庫)



「恐怖コレクター」のコミカライズが、2021年9月15日(水)発売の「月刊コミックジーン10月号」((株)KADOKAWA)より新連載スタートしました。

コミックジーン 2021年10月号

2021年9月15日(水)発売「月刊コミックジーン10月号」((株)KADOKAWA) 画像クリックでAmazonの紹介ページを確認できます


怪狩り 巻ノ五 せまりくる悪夢 (角川つばさ文庫)



『みんなから聞いた ほっこり怖い話(1)/幽霊の道案内』絶賛発売中!
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画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: assocbutt_gr_detail.png


鶴田法男Presents、サウンド・ホラー『THE PARANORMAL TELLER』無料配信中!

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https://spinear.com/shows/the-paranormal-teller/









【聞き手・福谷修プロフィール】

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「DVD&ビデオでーた」(角川書店)などの映画雑誌のライターや、構成作家を経て、2000年に自主製作したオカルティック・ラブストーリー『レイズライン』にて、みちのく国際ミステリー映画祭オフシアター部門グランプリ受賞。2003年、プロ映画監督デビューした日本香港合作ホラー映画『最後の晩餐-The Last Supper』(加藤雅也主演)でスコットランド国際ホラー映画祭準グランプリ受賞。その後、『こわい童謡 表の章/裏の章』(多部未華子、安めぐみ主演)、『渋谷怪談 THEリアル都市伝説』(石坂ちなみ主演)、『心霊病棟 ささやく死体』(芳賀優里亜主演)、『劇場版 恐怖のお持ち帰り』(馬場良馬主演)など、数々のホラー映画を監督する。また、NintendoDSのホラー・アドベンチャーゲーム『トワイライトシンドローム 禁じられた都市伝説』の監督・シナリオを担当するなど、映画以外のホラー作品も手がける。作家としても、『渋谷怪談』(竹書房)でデビュー後、『子守り首』(幻冬舎)、『心霊写真部』(竹書房)、『霧塚タワー』『鳴く女』『怪異フィルム』(TOブックス)など著作多数。

中でも、『心霊写真部』は2010年に中村静香主演でDVDドラマ化され、一度は打ち切られたものの、ニコ生ホラー百物語などで再評価され、人気が沸騰。クラウドファンディングを経て、2015年に『心霊写真部 劇場版』(奥仲麻琴)、2016年『心霊写真部リブート』(松永有紗主演)が製作される。

2018年、アニメーション作家、坂本サクが監督を務める劇場用ホラー・アニメ映画『アラーニェの虫籠』(花澤香菜主演)を製作・監修・プロデュース。本作は、アニメ映画祭の世界最高峰、アヌシー国際アニメーション映画祭にて正式上映された他、四大アニメ映画祭の一つ、ザグレブ国際アニメーション映画祭の長編コンペティション部門にノミネートされるなど、ドイツ、カナダ、台湾など、世界中の国際映画祭で招待上映され、好評を博した。新作はホラー・アニメ映画『アムリタの饗宴』(製作・プロデュース・監修)で2021年公開予定(令和二年度文化庁文化芸術振興費助成作品)。他に実写のホラー映画を準備中。

twitter
https://twitter.com/o_fukutani


(福谷修関連作品)

アラーニェの虫籠 [Blu-ray]

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